第12話『最終話は存在しない』
社内一斉メール
送信日時:1990年2月12日 09:00
送信者:編集部管理
件名:3月号掲載内容について
【Version 1.0】(2月12日 09:00送信)
各位
お疲れ様です。
3月号の最終校正についてご連絡です。
『たたかえ!みんなの神ちゃん』の最終話原稿は
2月9日に受領しました。
掲載位置はP.42-51となります。
なお、最終ページが白紙で届いたため、
作者に確認中です。
場合によっては掲載を延期する可能性があります。
校正部は通常通り準備を進めてください。
編集部
【Version 1.1】(2月12日 11:30再送信)
各位
先ほどのメールを訂正します。
『たたかえ!みんなの神ちゃん』について、
最終ページの件は解決しました。
白紙のまま掲載することになりました。
これは作者の意図によるものです。
3月号での掲載を予定通り進めてください。
編集部
【Version 1.2】(2月12日 14:45再送信)
各位
度々の訂正をお詫びします。
該当作品について、正確な情報をお伝えします。
3月号には掲載予定がありません。
そもそも最終回の掲載計画自体が存在しません。
P.42-51は別企画で埋めることになりました。
以上、よろしくお願いします。
編集部
【Version 2.0】(2月13日 08:00最終通達)
関係各位
昨日の混乱についてお詫び申し上げます。
正式な決定事項をお知らせします:
『たたかえ!みんなの神ちゃん』は
2月号をもって自然終了いたしました。
最終回という形式は取りません。
読者への告知も行いません。
3月号での言及は一切禁止とします。
本件についての問い合わせは受け付けません。
以上
代表取締役 岡田
3月号の実物確認
国会図書館保管の1990年3月号を確認。
目次:『たたかえ!みんなの神ちゃん』の記載なし
P.42-51:別の作品が掲載されている
作者一覧:天川ひかりの名前なし
しかし、一部の読者からの手紙(4月到着分)には
「神ちゃんの最終回、感動しました」
「最後のページ、涙が出ました」
という感想が含まれている。
彼らは何を読んだのか?
記者メモ
最初は「白紙のページ付き原稿」として存在していたものが、
メールのバージョンを重ねるごとに
「存在しない」ことになっていく。
この過程で興味深いのは、
物理的には確かに原稿が存在したはずなのに、
組織的な記憶から消去されていったことだ。
さらに奇妙なのは、
「存在しない最終話」を読んだという読者の証言が
全国に散在していることだ。
ある収集家は、
「幻の最終話が載った3月号」を持っていると主張する。
見せてもらったが、P.42-51は別の作品だった。
それでも彼は言う。
「白紙のページがあったはずなんだ。そこに全てが書かれていた」
Version 1.2のメールは、今もサーバーに残っている。
削除しようとすると、システムエラーが発生する。
エラーメッセージはいつも同じ。
「みてるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます