第14話『インタビュー02:ヨシオ(仮名・41歳・配送業)』
インタビュー記録
実施日:2025年3月25日 19:00-20:15
場所:埼玉県内ファミレス
記録方式:ICレコーダー
録音書き起こし[00:00:00]
記者:お仕事の後にありがとうございます。
ヨシオ:いやいや、大丈夫だよ〜。神ちゃんの話なんて、久しぶりだからさ。なんか懐かしくてさ〜。
記者:当時のこと、覚えていますか?
ヨシオ:覚えてる覚えてる! すっごく覚えてるよ。だってさ、神ちゃんは本当にいたんだもん。
[00:00:35]
記者:……本当に、いた?
ヨシオ:うん、いたよ。みんなで会ってたもん。放課後にさ、校庭の隅っこでさ。
記者:それは、ごっこ遊びでは?
ヨシオ:(真顔で)違うよ。本当にいたんだって。見えたもん、オレには。
[00:01:12]
記者:どんな姿でしたか?
ヨシオ:えっとね(考え込む)漫画と同じだったさ。大きい目でさ、いつも笑っててさ。「だいじょうぶ」って言ってくれるんよ。
記者:声も聞こえた?
ヨシオ:聞こえた聞こえた! すっごく優しい声だったさ〜。
[00:01:48]
記者:友達との"祈りごっこ"について教えてください。
ヨシオ:祈りごっこ? あー、あれね! 楽しかったな〜。みんなで輪になってさ、「ゴッドちゃん ゴッドちゃん きてください」って言うの。そしたらね(突然黙る)
[00:02:25]
記者:そしたら?
ヨシオ:……あれ? なんだっけ。忘れちゃった。
記者:今、何か思い出しかけていたようですが。
ヨシオ:うーん……なんかさ、みんなで何かしてたんよ。でも、いつの間にかみんな言わなくなったんだよね。神ちゃんのこと。
[00:03:03]
記者:なぜ言わなくなったんでしょう?
ヨシオ:わかんない。ある日突然さ、誰も神ちゃんの話しなくなってさ。オレが「神ちゃんどうした?」って聞いたらさ——
記者:聞いたら?
ヨシオ:先生に怒られた。すっごく怒られたさ。「そんなものはいない」って。でも、いたんだよ? オレ、見たもん。
[00:03:45]
記者:その後は?
ヨシオ:その後……その後ね(声が幼くなる)神ちゃん、どこ行っちゃったんだろうね。みんな忘れちゃったのかな。オレだけ覚えてるのかな。
記者:今でも覚えている?
ヨシオ:覚えてるよ〜。だってさ、約束したもん。「ずっと おぼえててね」って。神ちゃんとの約束だから。
[00:04:28]
記者:約束の内容は?
ヨシオ:えっと……えっと(混乱した様子)あれ? 何の約束だっけ? でも約束したんだよ。大事な約束。忘れちゃダメなやつ。
[00:05:02]
(長い沈黙・約15秒)
ヨシオ:(突然)あれ、オレ……なんでここに?
記者:インタビューを受けていただいてます。神ちゃんについて。
ヨシオ:神ちゃん? ああ、そうだった。神ちゃんね。懐かしいな〜。
[00:05:35]
記者:先ほど「約束」について話していましたが。
ヨシオ:約束? 何の約束? オレ、そんな話した?
記者:今さっき——
ヨシオ:(急に立ち上がる)あ、もう帰らなきゃ。明日も早いからさ。
[00:06:08]
記者:もう少しだけ——
ヨシオ:(早口で)ごめんね、ホントにもう行かなきゃ。じゃあね!
(足音が急速に遠ざかる)
[00:06:22]
(ドアの音)
[録音終了]
記者の注釈
インタビュー後、ヨシオ氏とは連絡が取れなくなった。
勤務先に確認したところ、
「3月26日から無断欠勤が続いている」とのこと。
自宅を訪ねたが不在。
録音を聞き返すと、彼の語り口が徐々に幼児退行していることがわかる。
41歳の男性とは思えない無垢な口調。
まるで時間が止まっているかのように。
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