第1章 1-17 選ばれる未来

「――以上です」

桐生結衣が簡潔に報告を終えた。

浩一が語った“神々と代行者”の話は、支部長・白石剛志と大賀鉄心、竜崎嶺二の三人にも伝えられた。


白石は深く頷き、低く告げる。

「今聞いたことは、ギルドの特別規則に基づき国家機密とする。口外は一切許されん。違反すれば、法に基づき極めて厳しい罰が下る。――全員、承知したな?」


病室にいた全員が無言で頷く。

空気が張り詰め、誰も軽口を叩こうとすらしなかった。


白石は間を置き、姿勢を正す。

「次に、エンペラー討伐の報奨について伝える」


視線が浩一に向けられる。

「佐伯浩一。今回の功労により――《ソウルイーター》の正式所有権は、あなたに帰属することとなった」


その言葉に、室内の空気が揺れた。


「さらに報奨金として一億円を支給する」


「……え? 一億だけですか!?」

高坂が思わず声を上げる。

三浦も驚きに目を丸くした。

「エンペラーを倒した報奨にしては……安すぎませんか?」


「その通り」

すみれが苦い表情で頷く。

「冒険者社会じゃ、一億なんて大金じゃない。レベル20ならもう中級冒険者。武具一式で数千万は消えるのよ」


桐生が補足するように言葉を重ねた。

「ええ。だからこそ、金額よりも――ソウルイーターの所有権が認められたことこそが本当の報奨なのです」


スタリーナも腕を組み、紅い瞳を細める。

「国家とギルドが“認める”ってことは、“縛る”って意味でもある。忘れるなよ」


浩一は重みを感じて黙り込む。

一億円という数字よりも、「ソウルイーターの所有者」として国とギルドに公式に縛られた事実が、何よりも重くのしかかった。


その時、すみれが静かに口を開いた。

「……全滅した冒険者パーティには、何か報奨は出ないんですか?」


室内がわずかにざわめき、全員の視線が白石へ集まる。

支部長は少し眉をひそめ、しかし真剣に頷いた。

「本部と協議しよう。遺族への補償も含め、必ず何らかの形で対応する」


浩一は思わず、すみれを見直した。

(……よく言ってくれたな)


沈黙を守っていたシオンが、その瞬間、わずかに唇を吊り上げた。

親指を立て、小さく「グッジョブ」と示す。


浩一は苦笑しながら小さく頷き返した。


白石は次にスタリーナへ目を向ける。

「〈スィェールィ党〉には後日、希望を聞き取り、それぞれに相応しい褒賞を与える」


スタリーナは軽く顎を引き、紅い瞳を細めた。

「それでいい」


「そして――」

白石は高坂たち五人を見回す。

「君たちには、今のレベルに相応しい全身装備一式を貸与する。成人後、本人たちと協議のうえ、正式な装備や報奨金を与えることになる」


仲間たちは驚きと同時に緊張した面持ちで頷いた。


重苦しかった病室の空気が、ようやくわずかに和らぐ。

竜崎が深々と頭を下げ、スタリーナも満足げに腕を組む。


だが――すぐにまた、火花が散った。


「浩一を銀の盾に迎えるべきだ」

大賀団長が低く告げる。

「ソウルイーターを持つ者は、国家の盾となるべきだ」


「何を言う。あいつは家に来る。家族としてだ」

スタリーナが真っ向から返す。


「佐伯さんは既にギルド職員として採用内定しています!」

桐生が一歩前に出て声を張った。


三者三様の主張がぶつかり合い、場の空気は再びきしんだ。


浩一は深く息を吐き、椅子から立ち上がる。

全員の視線が集中する中、しっかりと声を出した。


「……俺は、これまで通りソロで活動したい」


病室が凍りついた。


「はぁ!?」

夢香が目を見開き、父を睨みつける。


「ふっ……おもしろい」

スタリーナが肩を揺らして笑い、紅い瞳が愉快そうに輝いた。


「まったく……どうしてあなたはそうなんですか」

桐生は額に手を当て、心底呆れたようにため息を吐く。


報奨と口止めが告げられ、束の間の安堵が訪れたはずの病室。

だがその空気は、主人公の一言でまたも波紋を広げていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る