世界の終わりは、いびきをかきながら私を足蹴にして寝る旦那の顔でやってきた

@tankodayo

明日


世界の終わりは、いびきをかきながら私を足蹴にして寝る旦那の顔でやってきた。

……と、そんな風に思えるくらい、この家は今日も平和だ。


夕飯


焼き魚を前に、旦那が得意げに言う。

「見ろや、この骨。美しすぎる標本やで」

「標本にすな、食べ物や」


旦那、骨を箸で立てる。

「ティラノサウルス!」

「こんな貧弱な恐竜博物館に置いたら、入館者ゼロやで」


味噌汁の豆腐を指さして言う。

「見ろ、この豆腐。宇宙船や」

「豆腐で宇宙行けるか」

「行ける。俺の心の燃料はお前や」

「誰が燃えカスやねん」


漬物を掲げてドヤ顔。

「ほら見てみ。ピクルス星人!」

「うちは漬物や! どこからピクルス出てきた」

「国際結婚や」

「アホな宇宙条約あるか」


茶碗を掲げて目を輝かせる。

「雪山や。アルプスや」

「……ちょっとは食べ物として扱え」

「いや、登山や。登頂成功!」

「米一粒で遭難せぇ!」


私は笑いすぎて涙目になる。

ほんまにバカ。

でもこのバカさが、子どもが巣立って静かになった家を満たしてくれる。


テレビから「地球の未来は暗い……」と深刻な声が流れる。

思わず手を止める私。

旦那はちらっと画面を見ただけで、ご飯粒をつまんで言う。

「地球滅んでも、これ一粒あれば宇宙で生きていける」

「……無理や」

「お前となら行ける」

「……アホ」


笑いながら、胸の奥がじんわりして泣きそうになった。



ベッドに入ると、旦那は即座に寝落ち。

いびきをかきながら私を足蹴にする。

蹴られた足がちょっと冷たいけど、妙に安心する。


世界の終わりがもし来ても、こんな風に足蹴にされながら、笑って終わりたい。



---


追記(旦那の思い)


夜。

隣で妻は、もう寝息を立てていた。

さっきまで笑っていた顔を思い出す。


布団の中で、そっと腕を伸ばす。

肩に触れただけで胸がいっぱいになる。


声に出すのは気恥ずかしい。

だから眠った横顔を抱きしめながら、心の中で繰り返す。


――まだまだ、お前と一緒に。


涙がにじんでも、彼女は気づかない。

それでいい。

この気持ちは、きっと明日も続いていく。

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