第15話
映画館を出た後、俺たちは近くの喫茶店で昼食を食べた。
その後、本命の目的を果たすためにショッピングモールへと向かった。
「それで……奏汰君。プレゼントだけど、どんなものを買うとか決めてるの?」
「アクセサリーとか、どうかなって」
あらためて、面と向かって言うと恥ずかしい。
女の子にアクセサリーを贈るなんて、気があると言っているようなものだ。
「アクセサリー? ……いいの?」
「いいの……って?」
「えー、あー、いや、天沢さん……」
「天沢?」
どうしてそこで天沢の名前が出るんだ?
俺は首を傾げた。
「な、何でもないわ! えっと……物によっては高かったりするから。大丈夫かなって」
「貯金はそれなりにあるから」
コツコツ貯める方なのでお金はそれなりにある。
もっとも、高校生がお小遣いでためられる範囲内だから……。
「でも、あまり高いのはナシな」
「えー、どうしようかな?」
愛歌はニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。
もっとも、金銭に関しては愛歌は良識が備わっている方だ。
高価すぎる物を要求される心配はないだろう。
こうして二人で腕を組みながら、ショッピングモールへと向かう。
そしてアクセサリーが売られているテナントにはいる。
「おぉ……そこそこ、するな」
「大丈夫?」
「あ、あぁ……もちろん」
今日はアクセサリーを買うと決めたのだ。
ちょっと予算オーバーしたくらいで撤退するつもりはない。
「どれがいい?」
「うーん」
愛歌は顎に手を当て、店内を物色し始める。
見本を手に持ってみたり、店員に話を聞いたり。
俺は緊張しながら愛歌を見守るが……。
「うん、決めた!」
「おぉ!どれにする?」
「奏汰君が選んで」
「……決めたんじゃなかったのか?」
「奏汰君が選んでくれたのにするって決めたの」
いやいや、今日のデートは「愛歌に自分でプレゼントを選んでもらう」のが趣旨なんだけど。
俺が選んでいいなら、それこそ天沢と一緒に選んで、サプライズプレゼントを渡した方が良かった。
「俺、センスに自信ないし……」
「私は奏汰君が選んでくれたものが欲しいの」
愛歌は少し赤らんだ顔で俺をジッと見つめながらそう言った。
そういう言い方をされると弱い。
「後悔しても知らないぞ」
「嫌なのは嫌って言うから」
「あ、そう……」
それなら愛歌が選ぶのと変わらないのでは?
いや、大事なのは俺が選ぶという過程なのだろう。
愛歌はそういうのを大事にする……というか拘るタイプだ。
俺は腹を括り、アクセサリーを選び始めるが……。
「これとか、どう?」
「えー」
「こっちは?」
「うーん」
中々、愛歌のお眼鏡に叶うものがない。
派手過ぎるとか。
地味過ぎるとか。
服に合わないとか。
もう、お前が選べよ。
そう言いたかったが、それを言ったら破局だ。
「そうだな……」
思い出せ。
天沢のアドバイスを。
確か、彼女は「学校に着けていっても問題ないようなデザイン」「ブレスレットとか」と言っていた。
よし、派手過ぎない、学校の制服と調和するブレスレットだ。
となると……。
「これとか、どうだ?」
それは黒い革製のブレスレットだ。
可愛らしいハート形のチャームがついている。
ちょっとロックな雰囲気で、カッコ良さもある。
これなら白いブラウスや黒いブレザーに合うんじゃないだろうか?
少し輪が大きい気もするけど、でもベルトみたいに調整できるだろう。
「え、ええ!?」
しかし愛歌は少し驚いた様子で俺の顔を見て来た。
……何か変だったか?
「本気で言ってるの?」
「え? あぁ、うん……学校の制服に合うかなって」
「制服!? こ、これ……学校に付けて行って欲しいの?」
な、何だよ……。
そ、そんなにおかしかったか? 特に変なデザインでもないと思うけど。
「嫌なら……」
「嫌とは言ってないから」
愛歌はそう言うとブレスレットの前で腕を組み、悩み始めた。
そんなに悩むようなことだろうか?
「別のに……」
「奏汰君はこれを私に付けて欲しいんだよね?」
「え? あぁ、うん……」
「それも学校に着けて行って欲しいんだよね?」
「ま、まあ……学校で着けても邪魔にならない、怒られなさそうなやつを買おうかなとは思ってたけど」
「そう、なるほど……」
そう言って頷く愛歌の顔は赤く染まっていた。
少し恥ずかしそうだ。
「じゃ、じゃあ……これにするわ!」
「いいのか? 嫌なら……」
「だから嫌じゃないって!」
愛歌は頬をプクっと膨らませた。
それから気恥ずかしそうに顔を背ける。
「で、でも……奏汰君のお願いだから、付けてあげるの。他の人から貰っても、絶対に付けないから!」
「あ、あぁ……分かった!」
ブレスレットって、そんなにおかしいプレゼントだったか?
俺は思わず首を傾げる。
「じゃあ、次は奏汰君へのプレゼントね」
「俺の?」
「当然でしょ。私だけ貰ってばっかりは、おかしいし」
愛歌はそう言うと、男性向けのアクセサリーコーナーへと向かう。
「うーん……私は――だから。奏汰君はブレスレット……かな?」
愛歌は少し赤い顔でブツブツとそう言いながら、ブレスレットを一つ選んだ。
革製のブレスレットだ。
俺が愛歌に選んだのと、デザインが少し似ている。
「他意はないからね?」
「あぁ、うん?」
愛歌の意味深な言葉に俺は首を傾げる。
すると愛歌はクスっと小さく笑う。
「奏汰君も意外と大胆……ふふ」
「どうした?」
「何でもないわ」
良く分からない。
良く分からないが、しかし俺からのプレゼントは最終的には気に入ってくれたらしい。
会計の時も上機嫌だった。
「ねぇ、奏汰君。この場で着けて良い?」
店から出ると、愛歌は早速そう言った。
もちろんだと俺は頷く。
すると愛歌は嬉しそうに袋を開け、ブレスレットを取り出した。
そしてそれを自分の首に付けた。
……え?
「どう? 奏汰君。可愛い?」
首に黒い革製のブレスレット――否、チョーカーを身に付けた愛歌は俺に笑顔を浮かべながらそう言った。
ハート形のチャームがゆらゆらと揺れている。
「あ、あぁ……うん! も、もちろん!!」
そ、そうか……チョーカーだったのか。
通りで輪が大きいなと思っていたけど……。
「ほら、奏汰君もつけて」
「あ、あぁ……」
俺も愛歌にプレゼントしてもらったブレスレットを取り出した。
こちらはチョーカーだったというオチはなく、普通のブレスレットだった。
手首に巻き付ける。
付け心地は悪くない。
「似合ってるじゃん」
「それは良かった」
「ふふ、お揃いだね」
愛歌が嬉しそうに微笑むと、ハート形のチャームが揺れる。
自然と視線が彼女の白い首、そして黒い革製のチャームに奪われる。
「どうしたの? 奏汰君」
「あぁー、いや……買って良かったなと思っただけだ」
首輪みたいだなと、思ってしまった。
少し……いや、かなりエロい。
「ふふ、奏汰君もカッコいいよ?」
愛歌は微笑むと、俺の腕に指を這わせてきた。
そして俺のブレスレットに触れる。
俺のブレスレットも黒い革製だ。
愛歌のチャームとデザインが似ている。
別にそういうセットではないが、しかし一対の物に見えた。
首輪とリード。
そんな連想をしてしまった。
や、ヤバイ……胸がドキドキしてきた。
「奏汰君」
「うわっ!」
手を握られた。
指と指を絡め、恋人繋ぎをされる。
「これからどうする?」
「……ホラー映画鑑賞会のために、映画でも借りに行くか?」
「うっ!」
愛歌は顔をひきつらせた。
忘れていたようだ。
「嫌なら別に……」
「い、嫌じゃないけど!? ……でも、そうね」
愛歌は目を伏せた。
そてから俺の顔を見上げる。
チャームが揺れる。
「お、お泊まりしていいなら……やってもいいわよ?」
……え?
お泊まり?
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