第16話
「いや、別に怖いからとかじゃないわよ? ただ、せっかくのお誕生日だから。一日、一緒に過ごそうかなって……ダメ?」
私は上目遣いで奏汰君にそう尋ねた。
すると彼は頬を掻きながら頷く。
「泊り、か。ま、まあ……今日は母さんいないし。丁度いいって言ったらいいけど」
「やった!」
ふふ、馬鹿め。
引っかかったな!!
私は手を叩きながら、内心でほくそ笑んだ。
きっと奏汰君は私がお化けが怖いから、一緒に夜を過ごしたがっていると思っていることだろう。
そんなわけない。
私はもう、高校二年生。お化けなんて全然、これっぽっちも怖くない。
だけど怖がるふりはできる。
そして夜な夜な、奏汰君のベッドの中に潜りこみ、震えるふりをして抱き着き、奏汰君を誘惑!
――奏汰君、怖いよぉ。
――大丈夫だ。俺がついてる。
真夜中、ベッドの中で抱き合う男女。
何も起こらないはずがなく!
このままゴールイン!! 希望の未来へレッツゴー!!
既成事実確定!!
私の大勝利でエンディング!!
十年後には元気な赤ちゃんを抱える私!!
見えてしまった。
未来が。
ふふ……。
という感じの私の高度な策略なのであって、決してお化けが怖いとかそういうわけではない。
夜、おトイレに一人で行けるか不安だからじゃない。
全然、そんなんじゃないから。
そもそも、お化けなんているわけないし?
怖くもなんともないから。
勘違いしないでよね。
家に帰る頃には四時頃だった。
今から夕食の準備をすれば、ちょうどよい時間になるだろう。
「じゃあ、私、お泊まりセット持ってくるね」
「あぁ、うん」
お泊まり。
その言葉に俺は胸が高まるのを感じた。
一気に距離を詰められるかもしれない。
もしかしたら、あんなことやこんなことが……。
「くれぐれも、気を付けないとな」
とはいえ、俺たちは恋人同士ではない。
一線を超えることだけは避けなくては。
そんな決意をしていると、愛歌が戻って来た。
手にはリュックを持っている。
そして服装も少しだけ変わっていた。
「そのズボン……」
「あぁ、私の部屋着。ジーンズだとリラックスできないから」
愛歌は履いているショートパンツを指で摘まんだ。
いわゆる、ドルフィンパンツと呼ばれる物だ。
さっきまで履いていたズボンよりも丈が短く、そして外側の太腿の部分に切れ込みが入っている。
可愛いけど、ちょっとエロい。
「どうしたの?」
「ああ、いや……料理、作ろうぜ」
愛歌は特に意図しているわけではなさそうだった。
できるだけ意識しないように努める。
下半身ではなく、上半身を見るようにしよう。
そう思ったが……。
「お、おい……!」
「今度は何?」
愛歌が突然、服を脱ぎ始めた。
先ほどまで着ていたシースルーのシャツを脱ぎ、キャミソールだけになる。
「い、いや、どうして脱いで……」
「料理するから。汚れたら嫌でしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
愛歌の言う通りだが、しかし目のやり場に困る。
胸の谷間とか見えてるし。
「あれ? もしかして、奏汰君。意識しちゃうの?」
「そ、そんなわけ、ないだろ。お、おい……近づくな!」
案の定、調子に乗った愛歌は俺との距離を詰めて来た。
俺はそんな彼女を両手で制する。
愛歌はケラケラと楽しそうに笑う。
「大丈夫よ。料理中はエプロンするから」
愛歌はそう言ってリュックからエプロンを取り出し、見に纏った。
エプロンは大きめで、愛歌のキャミソールをしっかりと覆い隠した。
でも、これはこれで……。
「これでいいでしょう?」
「あぁ、うん……」
正面から見ると裸エプロンに見える。
セクシー度が跳ね上がってしまった。
果たして、俺は無事に朝を迎えられるのだろうか?
少し心配になった。
夕食は二人でカレーを作った。
もっとも、レシピは愛歌の物だし、俺は野菜を切ったり、一時的に火の番をしたくらいだから、実質的には愛歌の手料理と言ってもいい。
「どう? 美味しい?」
「あぁ、美味しい。さすがだな」
「えへへ」
手料理を褒められた愛歌はとても嬉しそうだった。
愛歌の笑顔を見て、俺も少し幸せな気分になった。
来年も、五年後も十年後も、その先もずっと一緒にいたいと思った。
夕食を食べ終えた俺たちはリビング前のソファーに座った。
「まずは何から見る? やっぱり、有名なやつがいいわよね?」
愛歌はリモコンでテレビを操作する。
有名作品であれば、わざわざ現物をレンタルしなくても、配信サイトなどで見ることができる。
「あぁ、うん……その、愛歌」
「どうしたの?」
「ちょっと近くないか?」
俺は二の腕に愛歌の柔らかい膨らみを感じていた。
今の愛歌はキャミソール一枚という薄着な格好であるため、刺激がダイレクトに伝わってくる。
正直、もう少し離れてほしい。
「えぇー、そうかな? 別にこれくらい、どうってことないでしょう?」
「も、もう少し離れて欲しいかなって……」
「ダメな理由があるの?」
「な、ないけど……でもくっつかないといけない理由もないだろう?」
どうせ、愛歌のことだ。
俺のことを誘惑して、その反応を見て楽しんでいるだけだろう。
俺の気も知らないで。
このまま、欲望の赴くままに愛歌のことを襲ってしまえたら、どれだけ楽か……。
いや、やらないけどさ。
「それは、その……そうだけど」
「じゃあさ、お互い離れた方が……」
「こ、怖くて……」
「え?」
「その、頼りにしちゃ……ダメ?」
愛歌は俺の腕を抱き、体重を俺に預け、そして上目遣いでそういった。
その庇護欲をくすぐる表情に、天秤が欲望の方へと一気に傾く。
「ま、まあ……そこまで言うなら、いいけど」
「ふふ……やった!」
愛歌は歓喜の声を上げると、俺に腕に抱きついた。
う、うん……なんだろう。
何だか、いいように弄ばれている気がする。
もしかして、わざとなのか……?
そして二時間ほどの時間が経ち、映画を一本見終わった。
正直な感想としては、怖いどころの話ではなかった。
「うぅ……こ、怖い……」
「愛歌……大丈夫か?」
俺は愛歌の頭を撫でながら優しく問いかける。
映画の中盤くらいから、愛歌はもう映画を見ることもできなくなったようで、ずっと俺の体に抱きついていた。
そして時折、テレビに視線を向け、そして悲鳴を上げたり、ガクガクと震えながら俺に抱きついた。
そして俺は片想い中の幼馴染に抱きつかれ、理性が飛びそうだった。
映画どころの話ではない。
「も、もう……終わった?」
「あぁ、うん。終わったよ」
耳を塞ぎながら、涙目で訪ねてくる愛歌に俺は答えた。
彼女はテレビへと視線を向ける。
そしてホっとした様子で息をついた。
「ま、まあ……大したことなかったわね」
「そ、そうか……」
どこからその自信は出てくるのだろうか?
俺は思わず首を傾げる。
「じゃあ、続編を……」
「ちょ、ちょっと待って!」
リモコンを操作しようしたタイミングで愛歌に止められる。
「ほ、他のやつがいいなぁ……って」
「……まあ、いいけど」
やっぱり怖かったらしい。
愛歌が楽しめないようじゃ意味ないし、別の映画にしよう。
「じゃあ、この幽霊のサメが襲い掛かってくるやつとかどうだ?」
俺はレンタルしてきたDVDを手にしてそう言った。
ホラーというよりはパニック映画だ。
ギャグとも言う。
「いいわね! それにしましょう!!」
早速、映画を再生する。
リモコンを操作し、そして愛歌に向き直った。
「ところで愛歌」
「どうしたの?」
「この映画は怖くないし、離れてもいいんじゃないか?」
「むっ……」
愛歌は口をへの字にしながらも、俺から距離を取った。
そして腕を組み、何やら考え込み始める。
「愛歌?」
「……せっかくだし、練習しない?」
「練習?」
「えっちの練習」
何を言い出すかと思えば、また“練習”か。
どうせ、俺を揶揄うつもりなんだろ?
ホラーが怖いっていう大義名分が使えなくなったからって、そんな簡単な誘惑に俺が引っかかるとでも思ったのか?
「内容にもよるけど。……今度は何をするんだ?」
でも、話だけは聞いておこう。
俺が耳を傾けると、愛歌はニヤっと笑みを浮かべた。
「膝枕、なんてどう?」
そう言って白い太腿を軽く叩いた。
ぐっ……。
ひ、卑怯者め……。
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