第14話
ふふ、奏汰君……私の服見て、ちょっとドキドキしてたよね?
私は少し嬉しい気持ちになった。
手を握ることはできなかったけど、大丈夫。
私には秘策がある。
「どれが見たいとか、あるか?」
映画館に到着してから、奏汰君はパンフレットを眺めながら言った。
もちろん、見る映画は決まっている。
「これとか、どう?」
私が指さしたのは、今流行りのホラー映画だった。
ネットではとっても怖いと評判だ。
「え? いや、でも……」
「もしかして、怖いの?」
私は奏汰君を挑発する。
これならホラー映画が苦手な奏汰君でも、乗ってくるだろう。
そして奏汰君はホラー映画を見て、ドキドキする。
それを私と一緒にいることへのドキドキと誤認するはずだ。
つまり吊り橋効果だ。
加えて、怖がる奏汰君を励ますという名目で、手を握ることもできる。
我ながら完璧な作戦だ。
これで私の勝利は確実!
「いや、俺はいいけど……愛歌はいいのか?」
「どういう意味?」
「だって、昔、お漏らし……」
「そ、そんな大昔のこと、掘り返さないで!」
た、確かに昔、奏汰君のベッドの中でお漏らししたことはある。
お泊まりの時、一緒に見たホラー映画が怖くて、彼のベッドの中に潜りこんだのだ。
その後、おトイレに行くのが怖くて……でも奏汰君は全然、起きてくれなくて……。
でも、それは大昔、太古の昔の話だ。
今の私はそこまで怖がりじゃない。
「いや、でも小六の時だし、大昔っていうほど大昔じゃ……」
「今の私は高校二年生! これくらい、怖くもなんともないから!」
あれから四年も経っている。
きっと克服できているはずだ。……多分。
「でもなぁ……」
「まあ、奏汰君がどうしても見たくないって言うなら、怖くて夜も眠れなくなっちゃうって言うなら、止めてあげてもいいけど?」
「ぐぬっ……」
ま、まあ、正直、私もちょっと怖いし……。
嫌がる奏汰君に、ホラー映画を無理矢理見せるのも良くないから。
別の映画にしても……。
「後悔してもしらないからな?」
「望むところよ」
……見ることになっちゃった。
私たちはチケットを購入し、シアタールームに入る。
当然だけど、シアタールームは薄暗い。
ここで怖い映画を見るの……?
ちょ、ちょっと怖くなって来ちゃった……。
「やっぱりやめるか?」
「い、いや、別に怖くないし!」
私から言い出したのに、今更怖いなんて言えない。
痩せ我慢もあり、私は奏汰君に気丈に言い返した。
すると奏汰君は私に手を伸ばして来た。
「手、握ろうか?」
「うっ……」
わ、私から提案するつもりだったのに……。
悔しい。
でも、胸がキュンってしちゃった。
不覚だ。
私が奏汰君をドキドキさせるつもりだったのに……。
「か、奏汰君が握って欲しいなら……」
私は奏汰君の手を握る。
彼の手は記憶よりも大きくて、ゴツゴツしていた。
頼り甲斐のありそうな手だ。
胸が温かくなるのを感じる。
「こ、これは恋人の練習だから。怖いわけじゃないわよ?」
「あぁ、なるほど?」
な、何よ……その顔。
ニヤニヤしちゃって!!
「ふぅ……」
「はぁ……」
ようやく映画が終わり、私は脱力した。
映画の内容は思っていたよりも怖かった。
まだ胸がドキドキしている。
今晩、おトイレいけるかな……。
「結構、怖かったな。……大丈夫か?」
奏汰君に顔を覗き込まれる。
とても心配そうな顔だ。
私は慌てて表情を引き締め、胸を張った。
「まあ、そこそこって感じね。全然、大したことなかったわ!」
「ならいいけど」
奏汰君はすまし顔だ。
っく……な、何でもないって顔しちゃって!
「そういう奏汰君は怖かったみたいね」
「はぁ?」
奏汰君はムッとした顔をする。
でも、私は知っている。
奏汰君だって怖かったことを!
「何度も私の手をギュっとして。そんなに怖かった?」
「握りしめて来たのはそっちだろ」
「悲鳴も上げてたじゃない」
「愛歌の方が大きかった」
私は奏汰君と睨み合う。
確かに何度も悲鳴を上げちゃったし、手も握っちゃったけど……。
でも、奏汰君の方が怖がってた!
「じゃあ、帰った後にホラー映画の鑑賞会でもやるか」
奏汰君はニヤっと笑みを浮かべながら言った。
な、何を言ってるの……?
「え?」
「あぁ、怖いならいいけど……」
「はぁ? 怖くないし!!」
奏汰君なんかに絶対に負けたりしない!!
つい、ムキになってホラー映画鑑賞会という約束をしてしまった。
俺も得意じゃないのに……。
もう映画館を出たというのに、まだ胸がドキドキする。
これは吊り橋効果だろう。
別に愛歌にドキドキしているわけじゃない。
「どうしたの? 奏汰君」
「……もう、手を離してもいいんじゃないかなって」
何となく手を離すタイミングを逸してしまったせいで、俺は愛歌と手を繋いだままだった。
映画の視聴中に冷や汗を掻いたせいか、互いの手汗でじんわりと湿っている。
愛歌に気持ちが悪いと思われたくないし、何より気恥ずかしい。
「えー、別にいいじゃない。昔はこうして手を繋いで歩いてたし。何か、問題あるの?」
「問題っていうか……それは幼稚園児くらいの時の話だろ。もう、いい年だし……」
もしこの場をクラスメイトとかに見られたら、恋人だと思われてしまう。
……あれ? それはむしろ好都合では?
などと考えていると、急に愛歌に手を引かれた。
「えい!」
「うわっ!」
気が付くと愛歌は俺の手を抱くように組んでいた。
柔らかい感触がする。
「ふふ……」
視線を向けると、愛歌の胸に俺の腕が触れていた。
シースルーの服を着ているせいで、俺の腕が愛歌の胸のどの部分に触れているのか、はっきりと分かってしまう。
生地も薄いせいか、体温がダイレクトに伝わって来た。
「何だよ、急に」
「恋人の練習。恋人同士なら、これくらいは普通でしょう?」
「そ、そうかもだけど……」
胸がさっきよりもドキドキする。
こ、これは吊り橋効果のせいだ。
絶対にそうに違いない!
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