第46話 二次試験、尊い孤独と交錯
二月。
空気は一層冷たく、雪混じりの風が街を吹き抜けていた。
受験生にとって決戦の月。
俺たち三人も、それぞれ違う会場で戦いを迎えようとしていた。
先陣を切ったのは琴音だった。
彼女は二月中旬、都内の文学部を複数受験した。
「尊い論述でしたわ!」
試験を終えて顔を合わせたとき、琴音はそう言った。
だが、その笑顔の裏に疲労がにじんでいた。
「古文は尊い! 歴史も尊い! ……でも英語は尊くありませんでしたの」
笑いながらも、手は少し震えていた。
「大丈夫か?」俺が尋ねると、琴音は小さく頷いた。
「ええ。すでにいくつか受け終えておりますし、残りは後期日程ですの。あとは……お二人に託しますわ!」
その無邪気な声に、俺も森山も胸が熱くなった。
そして、いよいよ俺と森山の出番。
2月25日――国公立大学前期日程。
俺は地方国立の会場へ。森山は東京で東大へ。
場所も距離も違うが、同じ日に試験を受けるというだけで、不思議な連帯感があった。
試験開始直前。
教室に響く紙のめくれる音。
鉛筆を握る手に汗が滲む。
(落ち着け……俺は俺の地図を描けばいい)
地理と歴史の設問に向き合うと、これまで積み重ねた勉強が少しずつ形になっていくのを感じた。
(やれる……やれるはずだ!)
一方の森山は、難問の数学に挑んでいた。
「……」
額に汗を滲ませながらも、冷静に計算を重ねていく。
背水の陣――その言葉が、彼の姿そのものだった。
試験を終えた日の夜。
三人でグループチャットを開いた。
「尊い戦いでしたわ!」琴音が最初にメッセージを送る。
「悠真さん、森山さん、どうでしたの?」
俺は少し迷ってから返信した。
「全部は解けなかったけど、地理と歴史は自信ある。……勝負はこれからだな」
すぐに森山からも返ってきた。
「完璧ではなかった。だが、全力は尽くした」
その言葉に、琴音が即座に打ち込む。
「尊いですわ! お二人の努力は必ず未来に繋がりますの!」
画面越しに、三人の心がまたつながった気がした。
翌日。
帰り道のバス停で、俺は空を見上げた。
まだ冬の寒空。けれど、どこかに春の気配も混じっていた。
(バラバラの会場で戦ったけど……心は一緒だった)
尊い仲間がいる。その事実が、受験という孤独な戦いを乗り越える力になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます