第45話 二次試験本番、尊い現実と夢

 二月。

 冷たい風が校舎を吹き抜け、雪がちらつく中、ついに二次試験が始まろうとしていた。

 共通テストの結果を踏まえて出願した大学。それはもう、それぞれの未来に直結する。


 放課後の教室。

 森山は相変わらず分厚い過去問集を広げていた。


「……東大以外は考えていない」

 その声は冷静だが、奥底に張り詰めた緊張が見えた。


「森山さんは本当に尊いですわ! 背水の陣を敷いてなお前進なさるなんて!」

「……くだらない」

 耳を赤くしつつ、森山は視線を落とした。


 一方の琴音。

 彼女は文学部の赤本を抱えて机に向かっていた。

 ページにはカラフルな付箋が貼られ、古文や論述の部分だけがやけに鮮やかに色づいている。


「……琴音、お前の志望校、本当に大丈夫なのか?」俺は思わず尋ねた。


 琴音は少し微笑んだ。

「ええ。わたくしの学校は附属中学からの内部進学がありまして……わたくしも入試を経ずにこちらへ参りましたの。その分、基礎は弱く、数学や英語は尊くない点数しか取れませんわ」


 そう言って苦笑した。

「けれど、文学と歴史なら大丈夫ですわ。ですから、最難関ではなくとも、わたくしの興味を深められる文学部を選びましたの」


「なるほど……」

 納得が胸に落ちた。確かに文学部は全国に幅広くあり、合格ラインもまちまちだ。琴音なりに現実を見て、道を選んでいる。


「尊い挑戦ですわ! レベルがどうであれ、夢を追う心は尊いのですの!」


 そして俺自身。

 担任との面談を重ね、ついに出願を決めた。


「俺は……地方の国立大に出すことにした。地理や歴史を専攻できる学部だ」

 胸の奥にまだ迷いはある。けれど、ようやく未来の地図が描けた気がした。


「尊いですわ悠真さん! きっとその道が未来を拓きますの!」


 三人の進路は完全に分かれた。

 東大、地方国立、文学部。

 同じ教室で学んできた仲間が、それぞれ違う場所へ向かう。


 図書室の机に並ぶ問題集も、もう同じではなかった。

 けれど、不思議とその距離は寂しくはなかった。

(同じ時間を共有したからこそ、別の道を歩めるんだ)

 そう思えた。


 試験前日。

 三人で最後に顔を合わせた。


「……これで、明日からは別々の会場だ」森山が低く言う。

「でも、尊い仲間であることに変わりありませんわ!」琴音が胸を張った。

「俺も……そう思う。別の道でも、一緒にここまで来たんだから」


 三人で見上げた冬の夜空は、澄みきった星でいっぱいだった。

 その光のように、それぞれの未来もきっと輝いている――そう信じた。

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