第44話 二次試験への道、尊い別れと決意
二月が迫る。
共通テストの自己採点をもとに、出願先を決める時期がやってきた。
教室のあちこちで生徒たちが担任や友人と相談している。
冬の光の下、机の上に広げられた願書用紙は、未来そのものに見えた。
「俺は……東大だ」
森山は迷いなく言った。
「この点数なら勝負できる。落ちれば全てを失うが、それでも行くしかない」
その横顔には、不安よりも強烈な決意が宿っていた。
「尊いですわ……」琴音が呟く。
「自ら背水の陣を敷く姿、尊すぎますの」
「……くだらない」
だが森山の耳は、やっぱり赤くなっていた。
一方の琴音。
彼女は成績表を前に、しばらく黙っていた。
「わたくし……文学部を志望しますわ」
「琴音、本気で?」
「ええ。判定はEでしたけれど最難関を目指すわけではありませんわ、それに古文と歴史で点を稼ぐしかありませんの。父には反対されましたけれど……尊い夢を追いたいのですわ」
笑顔で言ったが、その手は震えていた。
俺は思わず口を開いた。
「……無謀かもしれない。でも、琴音がそこまで言うなら、応援する」
「悠真さん……尊いエールですわ!」
その笑顔に、胸が熱くなる。
そして俺自身。
担任に問われ、迷いながら答えた。
「……まだ完全には決めきれてません。でも、地理や歴史を活かせる国公立に絞ります」
「はっきりしろ」森山が冷たく言う。
「決断の遅れは命取りになる」
「わかってる。でも……」
胸の奥で小さな不安が渦巻く。
(俺だけ、まだ揺れてる……)
放課後。
三人で図書室に集まったが、以前のように同じ問題集を解くことはできなくなっていた。
森山は東大過去問、琴音は文学部向けの記述問題、そして俺は国公立大の赤本。
机に並ぶ問題集が、それぞれ違う方向を指していた。
しんとした空気の中、鉛筆の音だけが響く。
同じ机に座っていても、もう一緒に進んでいるわけじゃない。
そんな寂しさが胸に広がった。
帰り道。
冬の空は早く暗くなり、街灯の下に三人の影が並んでいた。
「これから……別々の会場ですわね」琴音が言った。
「ええ」森山が短く答える。
「だが、ここまで一緒に歩んできた事実は消えない」
「尊い言葉ですわ!」琴音が笑い、俺も自然と笑った。
たとえ試験会場はバラバラでも、三人をつなぐ尊い絆は消えない。
そう信じて、それぞれの未来へと歩き出した。
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