第47話 合格発表、尊い未来へ
三月。
冷たい風に春の匂いが混じり始めた頃、ついに合格発表の日がやってきた。
携帯を握る手が汗で滑りそうになる。
画面の向こうに映る数字が、これまでのすべてを決める――そう思うと、心臓の鼓動が耳の奥で響いた。
最初に結果を見たのは森山だった。
東大の合格発表。
緊張で固まる指先を動かし、受験番号を確認する。
「……あった」
短く呟いた声は震えていた。
「森山!」俺と琴音が同時に声をあげる。
「……受かった」
その一言に、琴音が手を合わせるようにして叫んだ。
「尊いですわぁぁぁ! 本当に尊い快挙ですの!」
「……やめろ」森山は俯いたが、口元はわずかに笑っていた。
次は俺の番だった。
地方国立大の合格発表。
画面をスクロールし、自分の番号を探す。
(……ない?)
一瞬、血の気が引いた。だが、もう一度慎重に確認すると――あった。
そこに確かに、自分の番号が並んでいた。
「……受かった!」
思わず声が出る。
「俺……合格した!」
「悠真さん! 尊いですわぁぁ!」琴音が両手を叩いて喜ぶ。
胸の奥が熱くなり、思わず涙がにじんだ。
最後は琴音だった。
彼女はスマホを握りしめ、深呼吸を繰り返していた。
「わたくし……」
画面を見つめ、数秒間固まる。
そして、静かに呟いた。
「……第一志望は尊く散りましたわ」
その笑顔は少し震えていた。
俺と森山は息をのむ。
しかし琴音は続けた。
「けれど! 併願していた文学部に合格いたしましたの! わたくし、大学で尊い歴史を学べますわ!」
その明るさに、胸がぎゅっと締めつけられた。
諦めず挑んだからこその結果だった。
三人で顔を見合わせる。
東大、地方国立、文学部――進路はバラバラ。
けれど、不思議と寂しさはなかった。
「……これで終わりじゃないんだな」俺が呟く。
「そうだ。ここからが始まりだ」森山が短く答える。
「尊い未来の始まりですわ!」琴音が笑顔で言った。
春の風が頬を撫でる。
三人で過ごした尊い時間は終わらない。
それぞれの道を歩んでも、きっとまた交わると信じられた。
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