第26話 最後の文化祭、尊い選択

 九月下旬。

 校内は文化祭の準備でざわついていた。

 廊下を歩けば、各クラスのポスターや装飾が目に飛び込んでくる。

 三年にとっては、これが最後の文化祭。

 けれど同時に、受験生としては勉強を優先すべき時期でもある。


「……くだらない」

 森山が呟いた。

「受験生にとって文化祭は無駄だ」


「まぁ、そう言うなよ」

 俺は苦笑しつつ答える。

「最後なんだし、思い出作りも大事だろ」


「尊いですわぁ!」

 そこへ琴音が勢いよく割り込んできた。

「文化祭こそ青春の尊い結晶ですわ! 三年間の集大成ですもの!」


「……俺には受験の集大成のほうが大事だ」

 森山は冷たく言い放つ。


 教室では、文化祭実行委員が企画の進行状況を確認していた。

 どうやらクラスの出し物は「展示と軽いパフォーマンス」に決まったらしい。

 その瞬間、琴音が立ち上がった。


「歴史劇をやりましょう! 尊い王侯貴族のドラマですわ!」

「出たよ……」

 クラス中が笑う。

「尊い衣装に尊いセリフ! わたくしたちの尊さを全校に示しましょう!」


「待て」森山が即座に制した。

「そんなものに時間を割けば、勉強時間が減る。非効率だ」


「非効率でも尊いのですわ!」

「くだらん」


 またもや二人は真っ向から対立する。

 俺は机に頭を抱えた。

(……やっぱり板挟みかよ)


 放課後。

 三人で帰り道を歩きながらも、話題は文化祭のことで持ちきりだった。


「悠真さんはどう思いますの?」

「えっ、俺?」

「はい! 森山さんの効率か、わたくしの尊さか!」

「二択きつすぎるだろ……」


 俺は少し考えて答えた。

「たしかに受験勉強は大事だ。でも、文化祭も一度きりだろ。両立できる方法を探したほうがいいんじゃないか?」


 その言葉に、琴音がにっこり笑う。

「尊い中庸ですわ!」

「言い換えただけじゃねぇか」


 森山も小さくため息をつきながら言った。

「……お前の言うことも一理ある。だが、俺は参加するにしても最低限だ」


 それが彼の譲歩だったのだろう。


 夜。

 机に向かいながら、俺はふと考えていた。


(受験と青春……どっちも大事って、簡単に言えることじゃない。だけど、琴音と森山と一緒に過ごす時間があるから、今は踏ん張れるんだよな)


 窓の外には秋の虫の声。

 文化祭の準備と勉強の両立という、尊い試練が始まろうとしていた。

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