第25話 秋、尊い新学期

 九月。

 蝉の声が消え、代わりに秋の虫の音が夜道を彩る季節がやってきた。

 夏休みが終わり、俺たちは再び学校の教室に座っていた。


 黒板には「2学期開始」の文字。

 担任が淡々と告げる。

「この学期からは、模試の結果をもとに本格的に進路を固めてもらう。遊びたい気持ちはわかるが、いよいよ正念場だ」


 その言葉に、教室の空気がぴんと張りつめる。

 二学期。もう「まだ先」とは言えない。受験が近づいているのを誰もが感じていた。


 休み時間。

 俺は窓際でプリントを眺めながら、ため息をついた。

(志望校調査……そろそろ決めなきゃいけないのか)


「悠真さん!」

 背後から琴音の声。

「尊い新学期の始まりですわ! 未来の扉が開いております!」

「いや俺はプリント見て重くなってんだけど……」

「重い未来も尊いですわ!」

「何でも尊いで片づけるなよ!」


 周囲が笑い、少しだけ緊張が和らぐ。


 一方で森山は、机に分厚い過去問集を広げていた。

 夏休みも休まず勉強していた彼は、さらに目つきが鋭くなっている。


「森山、少しは休めよ」

「休む暇などない。秋を制する者が受験を制する」

「尊いですわ! 森山さんの覚悟、尊すぎますわ!」

「……やめろ」

 耳が赤いのは相変わらずだ。


 放課後。

 三人で帰り道を歩きながら、夏休みの模試の話が再び持ち上がった。


「悠真さんはC判定。でも着実に伸びてきていますわ!」

「まぁな。世界史と地理は得意になってきたけど、他はボロボロだ」

「尊い穴ですわ!」

「フォローになってねぇよ!」


 俺の愚痴に笑い声が混じる。


 ふと、森山が口を開いた。

「……俺は、もっと上を狙わなければならない。夏にAを取っても、次で落とせば意味はない」

 その言葉に、琴音が真剣な顔で言った。

「森山さん……。わたくしはE判定のままですが、不思議と希望を失ってはおりませんの。だって、お二人と一緒にいる時間が尊いから」


「……」

 森山がわずかに言葉を失う。

 俺も胸の奥に熱いものを感じていた。


(そうか……俺たち三人で歩んできた夏の日々が、もう力になってるんだ)


 校門を出ると、秋の風が頬を撫でた。

 夏とは違う涼しさに、季節の移ろいを感じる。


「秋も尊いですわ!」

 琴音が両手を広げる。

「模試も過去問も文化祭も、全部尊い挑戦ですわ!」

「……文化祭もかよ」

「ええ、三年の文化祭は最後ですもの! 尊いラストステージですわ!」


 その無邪気な声に、森山も俺も思わず笑ってしまった。


 秋の始まり。

 尊い仲間と共に、俺たちはさらに険しい受験の道を歩き出すのだった。

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