第27話 尊い準備と隠れた才能
文化祭まであと二週間。
教室では放課後になると、誰もが出し物の準備に追われていた。
俺たちのクラスは「歴史劇+展示」に決まり、衣装づくりとパネル作成を進めていた。
勉強に時間を割きたい三年生にとっては大きな負担――のはずだったが。
「尊いですわぁ!」
琴音は既に王女役の衣装に袖を通し、廊下を堂々と歩いていた。
「この尊いドレス! 学園一の尊い輝きですわ!」
「ちょ、まだ完成してないから! 安全ピン丸見えだぞ!」
俺が慌てて止めると、周りのクラスメイトが大爆笑した。
一方で森山は、展示パネルの文字校正を黙々と進めていた。
几帳面な性格が功を奏し、誤字脱字は一瞬で発見されていく。
「……完了だ」
赤ペンを置く森山の姿に、女子がざわついた。
「えっ、森山くんって字めっちゃ綺麗じゃない?」
「ほんとだ! 先生の板書より読みやすい!」
森山は珍しく顔を赤らめた。
「……くだらないことを言うな」
その横で琴音が大げさに拍手する。
「尊いですわ森山さん! 筆跡まで尊いとは!」
「やめろ」
準備の合間も、受験生らしい勉強は欠かせない。
休憩時間には、教科書を広げて小テストが始まった。
「悠真さん、この英文どう訳しますの?」
「えーと……“彼は砂漠を越えて都市に到達した”だな」
「尊いですわ! 砂漠を越える姿勢が!」
「いや英文の中身に尊い要素はない!」
周囲の笑い声に混じって、俺自身も勉強への焦りが少し和らぐのを感じていた。
そんなある日。
劇のセリフ練習をしていたとき、思わぬ出来事が起きた。
「――余は王である!」
クラスの男子が棒読みで叫ぶと、琴音がすかさず手を挙げる。
「尊い王の威厳が足りませんわ! ここは森山さんが!」
「俺が?」
突然振られた森山は一瞬戸惑ったが、観念したように台本を手にした。
そして――。
「余は王である! この地を守り抜くのだ!」
その低い声と堂々たる姿勢に、教室がざわめいた。
「……すげぇ、本物みたい」
「森山くん、演技力高っ!」
森山はすぐに真顔に戻ったが、耳まで赤くなっていた。
「くだらない。二度とやらん」
「尊いですわ森山さん! 威厳が尊すぎました!」
「やめろ!」
帰り道。
夕暮れの風が少し冷たくなり、秋の深まりを感じさせた。
「準備と勉強、両方大変ですわね」
琴音がしみじみと呟く。
「でも、尊い日々ですわ! 最後の文化祭に向けて、わたくし全力で挑みますの!」
「……無駄だとは思う」森山は淡々と言いながら、少し表情を緩めた。
「だが、悪くはない」
「そうだな」俺も笑った。
「勉強だけじゃ味わえない時間ってのもあるし」
三人の声が秋風に溶けていく。
受験と文化祭、その両方を抱えた尊い時間は、確かに今しか味わえないものだった。
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