第9話 修学旅行、尊い京都

 秋晴れの空の下、俺たち二年生は京都へ修学旅行にやってきた。

 集合写真を撮って、グループ行動開始。俺と琴音と森山の三人で行動する羽目になったのは……担任の謎の采配による。


「ではまず清水寺に参りましょう!」

 琴音がパンフレットを掲げて意気込む。

「尊い歴史が待っていますわ!」

「……いや、尊いって先に言うなよ」

「予告尊いですわ!」


 クラスメイトが笑っている横で、森山は相変わらず冷徹に地図アプリを睨んでいた。

「効率を考えれば清水寺よりも、金閣寺や銀閣寺を回った方が試験範囲的には有用だ」

「効率って……旅行でそれ言う?」

 俺が呆れると、琴音が胸を張った。

「森山さん、歴史は心で感じるものですわ! 試験のためだけに京都を巡るなんて尊くありません!」

「尊さで単位は取れない」


 相変わらず噛み合わない。


 やがて清水寺に到着した。

 舞台に出た瞬間、琴音が大声を上げた。


「尊いですわぁぁぁぁッ!!」


 観光客が一斉に振り返り、俺は顔から火が出そうになる。

「ちょっ……お嬢様! 観光客の視線が!」

「ご覧なさい悠真さん! この舞台から見下ろす景色! 命をかけて飛び降りる覚悟を“清水の舞台”と言わせる所以! 尊い歴史的慣用句!」


「いや、その飛び降りた人は結構危ないだろ!」


 観光客の外国人が「スゴイ!」と笑いながら写真を撮っている。

 恥ずかしい……でも、なんだか誇らしい気もする。


「……無駄口を叩くな」森山が冷たく言った。

「清水寺は平安時代末期に開かれ、徳川家光の時代に再建された。重要なのは年代と建立者。感情に流される必要はない」


「またそれかよ」

 俺は地図帳を開きながら言い返した。

「でもさ、ここ東山の高台にあるだろ? 立地が絶妙なんだよ。都の東側にあって、朝日が昇るのがよく見える。だから“清水”って名もついたし、信仰の場として栄えたんだ」


「……」森山がわずかに黙り込む。

 琴音は手を叩いて大喜びだ。

「尊いですわ悠真さん! 景観と信仰を結びつけるその視点! 尊すぎますわ!」

「いや、だから俺に言うな!」


 周囲の観光客が笑っている。俺たち、完全に漫才みたいになってないか?


 その後も琴音は暴走した。

 音羽の滝で水を飲んでは「尊いご利益ですわ!」と叫び、地主神社では縁結びの石に目を輝かせて「尊いロマンですわ!」と大騒ぎ。

 俺が必死にツッコミを入れ、森山が冷徹に史実を補足する。

 結果、観光していた別の班の女子から「三人セットで解説ツアーやれば?」と笑われた。


 夜。旅館の部屋で布団に寝転がりながら、俺は今日一日を思い返していた。

 確かに騒がしかったけど、不思議と退屈はしなかった。


「悠真」

 同じ部屋になった森山が、不意に口を開いた。

「……お前の地理的視点は、意外と役に立つのかもしれない」

「えっ?」

「清水寺の立地の説明、納得できた。俺は試験重視だが……理解が深まるのは悪くない」


 珍しく森山が俺を認めるような言葉を口にした。

 少し驚いていると、隣の部屋から琴音の大声が響いてきた。


「お布団も尊いですわぁぁ!」


 ……やっぱり騒がしいお嬢様だった。

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