第十話 うゆと終わり(if)
どれくらい走っただろうか。
最初に
一番走れるからと"うゆ"の群れを引きつける囮になったのだ。彼女を囲むように怪物は寄ってたかり。そして捕食した。骨の軋んでいく音が廊下に響いた。その時空いた僅かな隙間を縫って私と
何度も足が竦みそうになる私の手を引っ張って、
廊下を進んで四つ辻に出た時、足が止まった。恐怖で動かなくなった訳ではない。足元を見るとピンク色の赤子ほどの大きさ、恐らく"うゆ"のものであろう肉片が虫のようによってたかり足首にしがみついていた。生ぬるい嫌な感触が足から背筋を走る。左側の廊下から轟音が響いた。目を向けると廊下の奥から、今まで見せた事もないような速度で廊下を塞ぐ程のうゆの肉壁が迫っている。初めから逃げ切れなどしなかったのだ。
諦めたその時私の体は正面側の廊下に投げ出された。
「……!」
「…。」
走って、と最期に言っていた気がした。
小さなうゆの肉片が床を張って追ってくる。
私は走った。
そこから先はあまり覚えていない。
走れなくなるほどに走った。後ろからはまだ音が近づいている。ぼやける視界の向こう、前に続く廊下の先に1匹のうゆが静かに佇んでいた。それを見て私は折れてしまった。その場に座り込む。ぞりり、と私の前までやってきたうゆは少女の顔をして嗤っていた。
「早く隠れてれば楽だったのにね」
それだけ言うとうゆは、こちらに首を伸ばし大きな口を開ける。後ろの足音はもう止んでいた。
うゆ。
最期に聞こえたのはその2音だった。
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忌談 うゆ おわり
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