第9話 無視と居間

 花曇は静かに告げる

「…別に解明しなくても…いいかも」

入道と羊間は少し驚いて聞き返す。

「「というと?」」

「…いや普通に3人揃ったから…そのまま脱出すればいい…と思う」

「あーそれは確かに」

 羊間が少し考え込む。

「んーどうしよ」

 しばしの沈黙が3人を包んだのち、入道が口を開いた。

「よっしゃこうなりゃジャンケンだ。ユウヒが勝てば探索、ミゾレの勝ちで脱出な」

花曇は右手を差し出す。

「…ジャン」

「ケン」


 ぽん


「…!」(イェーイ勝ったの意)

花曇はいつもの鉄面のような真顔のまま飛び跳ねて喜んだ。

「これなんて言ってるのライちゃん」

「イェーイって言ってる」

「ちくしょうめっちゃ可愛い」


地図を頼りに3人は出口を目指す。

先刻の襲撃が嘘のようにうゆは襲って来なかった。

「あ、あのドアっぽいね」

扉を開けると外は眩いばかりに光っており、気がつくと____




 三人は元の凍星邸の台所に戻っていた。

 花曇達が入ってきたすりガラスのドア、奥のダイニングにテレビと机、椅子が二つある。部屋が東側だからか、斜陽は差し込んでこない。

案の定時計は書斎を出てから数分後しか経っていなかった。

「…全員無事…みたい」

「えっ終わり?」

「マジかよフル無視できたのかよこれ」

「…。」(ラッキーの意)

「なんか私だけ損した気分」

不服そうに愚痴る羊間を入道がなだめている。

「まあ出れたしなんでも良いだろとりあえず」

「くそぅ私の一大スペクタクルが_」

「……羊間ちゃん」

唐突に花曇が口を開く

「!?何?ミゾレちゃん」

「…他所の家で騒いじゃ駄目」

「!!!!!」

羊間は予想だにしていなかった説教に言葉を失ってしまった。

「すげえ説得力だ、ミゾレ先生って呼ぼう」

と入道は感心していた。羊間は心なしか花曇の無表情からドヤ顔を感じていた。

「あ、そうだ思い出したミゾレちゃん」

「…?」

 羊間は徐に鞄から携帯を取り出した

「録音さーせて♡」

「…ぅゎ」

「うわって言ってる」

 入道は無意味な通訳を入れる

「聞こえとるわいぐへへ__ってあ!そうだ」

 下卑た笑いを浮かべていた羊間が急に素に戻った。

「どした?」

「いや携帯あるなら外に連絡入れれば良いじゃん」

 入道は2秒固まった

「…あ、そうじゃん忘れてたわ、変な空間だと使えなかったからさ」

「…!」

 花曇は時計を指さして入道に伝える。

「ん?何?時計?…あー…羊間先生よ、人呼んでもここまでくるのに数十分かかるよな。」

「そうだね」

「その間あたし達がまた変な空間に飛ばされたとして、外の時間だと数分な訳だ」

 羊間は1秒考える。

「あー間に合わないねこれ」

「まあとりあえず居場所の連絡だけ入れとくか」

 入道と羊間が連絡を入れている間、携帯で出来る事を探していた花曇は突如思いく。

「…ライト」

 暗いダイニングを携帯の白い光が照らす。

「…!?」

 照らされた場所を見た三人はぎょっとした。


 椅子の向こうの白い壁、そこがドス黒く茶色に変色しかけた赤に染め上げられていた。




_____________________

 四章につづく

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