第8話 好奇と無関心
無機質に薄暗い通路が縦横に続いている。怪物の姿はもう見えない。
羊間が大きく息を吐いた。
「いやー見事に罠だったね」
「マジで死ぬとこだったわ、ありがとなユウヒ」
「いやいやそんな、メロンパン1個でいいよ〜」
「……激安」
羊間は息を整え、入道と花曇に向き直る。
「で、とりあえず二人が知ってる事教えてもらえるかな」
「…」
「話すと長くなるって言ってる」
「まあじっくり聞かせてよ」
「…」(かくかくしかじかで__)
「うん、あたしが話すわ」
あれやこれやとジェスチャーで伝えようとする花曇を制して入道は経緯を話し始めた。
***
「_ってな事があった」
入道が話し終えると、羊間は神妙な顔で考察する。
「田園に髪の毛のお化けと和室に梟のお化けね…なんか遊園地のお化け屋敷って感じだね」
「まあそりゃ屋敷にお化けが出てんだからな」
「あーそうじゃなくてね、例えば『心霊スポットに行くぞっ』ってなってお化けが出たとするじゃん」
「…」
「相場お化けは一体じゃない?」
「あー確かに」
「でしょ?だからあまりにもてんこ盛りすぎて誰かが意図して作ったお化け屋敷って感じがするんだよね」
「……誰か」
「そ、誰かわかんないけど後ろに黒幕がいる…的なね?まだ全然わかんないけど、…てか今ミゾレちゃん喋った?かわいいから後で録音していい?」
「…」(入道さんこいつ不審者ですの意)
「通報したって言ってるぜ」
「えー手厳しー」
3人は立ち上がると再び通路を探索し始めた。
歩きながら入道がふと呟いた。
「しかしあの情報でよくそこまで考えれるもんだなユウヒ先生よ」
「いやあ気になっちゃう性分でね」
「で結局あのグロい見た目のやつ何なの」
「なんか拾った資料によると『うゆ』って言うらしいよ」
羊間は手に持っていた本に挟んでいた古い紙を取り出す。
「お前そう言うのあるなら早く言えよ」
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うゆについての研究資料1
・うゆの意味について
古来より存在し人を惑わし喰らう"それ"には、その脅威に晒された当時の文明により名がつけられた。その名はうゆ。その後数千の年月が流れ、文明の移り変わりの中で"それ"を表す文字は失われ、音としての「うゆ」のみが残っている。その2音が何を意味していたのかのかを知る者は誰もいない、おそらく 「うゆ」本人を除いて。
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「だそうです」
「という事はここは『うゆ』の実験施設って感じか」
「ぽいね」
薄暗い通路の向こうに少し広い空間が見えた。
部屋に入ると数枚の資料と地図が落ちている。
正面にある扉には掠れた「第一研究棟」の文字が彫られており、左右にも扉がついている
「とりあえず場所については何とかなりそうだね」
と羊間が地図を拾い上げながら言う。
「あとは何処に向かうかだよな」
「ライちゃんから聞いた今までの流れ的にはうゆについて調べてれば出れそうな感じだね」
「とりあえずここに落ちてる資料は…と」
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うゆについての研究資料2
・うゆの捕食について
うゆの狩りは積極的に行われない。うゆの捕食行動の基本は「誘い込み」であり、人間の声、顔で人を誘う。一種の攻撃型擬態であると考えられる
・うゆの歴史について
うゆがいつからいた生物なのかはまだ不明、アフリカ大陸の5千年前に滅んだ文明の遺跡からうゆと思しき怪物の文献が出土している。人間の姿を真似る習性から人類の発生より後の存在という説も提唱されている。
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「らしいぜ」
「…」
「とりあえず急に襲われるみたいなことはなさそうね」
「この調子で情報を集めてきゃ良い訳だな」
「まあ多分この研究棟ってとこにあるだろうね」
羊間と入道は研究棟の大きなドアに手をかける。
「……待って」
重い沈黙を破って二人を止めたのは花曇だった。その手にはもう一枚の資料が握られている。
羊間は花曇の声に少し驚きながら聞く。
「どうしたのミゾレちゃん?」
花曇は二人に静かに告げた。
「……別に解明しなくても良い…かも」
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第九話or第9話につづく
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