第7章 鏡像の終局
霧に包まれたロンドン――否、“鏡のロンドン”。
すべてが反転し、秩序と混沌が逆さに張り付いた世界。
その中心にあるのは、“鏡の塔(ミラージュ・スパイア)”。
空に向かって伸びる尖塔の内部で、私たちは“最後の対話”を交わすことになる。
私――本来のシャーロック・ホームズと、
彼――反転したもう一人のホームズ。
「君は混沌を是とする。だが混沌はいつも血を呼ぶ」
反転ホームズが囁くように言った。
「私はその逆を選んだだけだ」
「だがその“整った世界”のために、いくつの命が無に帰した? 善と悪を勝手に塗り替える名探偵など、私は認めん」
「……面白いな。君はまだ、自らを“善”だと信じているのか」
沈黙。
塔の内部には鏡が無数に配置されていた。
私と“彼”が映り込むその世界では、どちらが本物かも、はや曖昧になっていた。
“この世界に、名探偵は二人いらない。”
銃声が鳴った。
私は身をかわし、鏡を割って反転ホームズの視界を遮る。
ステッキの中に仕込んだ細剣を抜き、狙いすました一撃を突き込む。
だが彼は、すでに同じ動きで私に応じていた。
“完全に同じ思考”――それが敵であることの恐ろしさだった。
「ならば、手段は一つだけだ」
私は息を整える。
「推理で、君を超える」
「証拠で、君を追い詰める」
「真実で、君を破る」
そして私は、一冊の手帳を彼に投げつけた。
そこには、“こちらの世界”で私が追っていたすべての証拠があった。
殺人の記録、目撃証言、消されたデータ……
すべてが、“秩序の名の下の虐殺”を指し示していた。
「君は探偵ではない。独裁者だ」
反転ホームズの手が震えた。
鏡の中の“揺らぎ”が始まった。
塔が、崩れる。
正と負、陰と陽、善と悪――
あらゆる対の概念が混ざり合い、世界は再び“可能性”の海へと還っていく。
私は最後に彼に声をかけた。
「……お前の罪を赦すのは、私ではない」
「だが、名探偵を名乗る資格があるのは、“真実を恐れぬ者”だけだ」
その瞬間、鏡が砕け、世界が再構築を始めた。
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