第9話 学園の氷舞台



 秋も深まり、校庭に大規模な模擬戦用の特設リングが設置された。

「雪乃ちゃん、今日も注目されるね」

 結衣が肩を叩く。雪乃は小さく息を吐き、手のひらに冷気を宿す。

「うん……でも、準備はできてる」


 対戦相手はクラス全員、いや学園の能力者たちも加わる大規模戦。カードを奪い合うイベントで、雪乃は広範囲時間凍結を最大限に使う覚悟を決める。


 笛が鳴ると同時に、生徒たちは飛び出す。雪乃は指先に力を集中させ、空気に微細な冷気を送り込む。瞬間、時間がわずかに止まり、カードを持つ生徒たちの動きが鈍る。観客席からはどよめきと歓声が一斉に湧く。

「うわ……世界が止まったみたい!」

 生徒たちの表情が驚きに変わる。雪乃は冷静に手を動かし、カードを安全に収める。


 玲奈も応戦する。空中で氷の結晶を操り、雪乃の凍結範囲の隙間を突こうとする。二人の力がぶつかり合う瞬間、校庭は一瞬の氷の嵐に包まれた。

「やっぱり……あなたは別格」

 玲奈の声に、雪乃はわずかに微笑む。力を制御する緊張感と楽しさが同時に押し寄せる。


 観客席では結衣をはじめとした生徒たちが息を飲む。

「雪乃……すごすぎる……」

「怖いけど、魅せられる……!」

 歓声とどよめきが混ざり合い、校庭全体が熱気に包まれる。


 時間凍結を解除すると、カードは全て雪乃の手元に集まる。彼女の冷静さと戦略が、観客にも分かりやすく映る瞬間だった。雪乃は小さく頭を下げ、観客やクラスメイトに向かって微笑む。

「みんな、お疲れさま」

 その笑顔に、能力の恐ろしさだけでなく、安心感も伴う。氷結支配は力を誇示するだけでなく、場を整えることもできる。


 放課後、雪乃は日記を開く。

「今日の模擬戦……怖かったけど、力をうまく使えた。日常だけじゃなく、非日常でも、私の力は役立つんだって実感した」

 指先の冷たさが、達成感とともに残る。氷結支配の力は、日常の小さな場面から、学園最大級のイベントまで、雪乃の世界を少しずつ広げていく。


 窓の外、夕陽に染まる校庭には、生徒たちの歓声と氷の光が残る。雪乃の氷結支配は、まだ未完成。けれど、日常と非日常をつなぐ力として、確かに存在していた。

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