第10話 氷の進化と日常の交差



 秋の終わり、校庭には落ち葉が舞い、風が少し肌寒い。雪乃は授業を終え、校庭の片隅で一人、指先の冷たさを確かめていた。

「もっと……精密にできるはず」

 カード大会や大規模模擬戦を経て、雪乃の氷結支配は確実に進化していた。時間を止める範囲や精度、氷の強度や形状、すべて微調整できるようになってきている。


 結衣が近づく。

「雪乃、今日も練習?」

「うん……少しだけ」

 結衣は微笑み、雪乃の横に座る。二人で氷結の応用実験を始める。雪乃は指先で微細な氷の結晶を操り、結衣が作る小さな氷の壁と組み合わせる。時間の凍結を部分的に使うことで、氷結の表現がより複雑で精密になった。


 その日の夕方、帰宅途中に小さなトラブルが起きる。公園で遊ぶ子どもたちのボールが道路に転がり、危うく車が避けられそうになる。

「待って!」

 雪乃は指先に力を集中し、氷でボールを凍らせて安全な場所に移動させる。時間凍結は短く、周囲にはほとんど気づかれない。小さな応用でも、人の安全を守れることを実感する。


 夜、雪乃は日記を開く。

「今日も少し成長できた。氷結支配はまだ未完成だけど、日常や小さなトラブルでも使えるようになってきた。玲奈ともっと練習して、力を高めたい」

 指先の冷たさが、手応えと達成感をともなって残る。能力の進化は、日常生活に直接リンクしているのだ。


 窓の外には、夜空に瞬く星々。雪乃はそっと手をかざし、微かな氷結の光を指先で感じる。

「この力で……もっと色んなことができるかもしれない」

 小さな希望と好奇心が胸に芽生え、日常と非日常の境界で、雪乃の学園生活は凛とした光を放ち始めた。

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