第7話 氷の進化と日常の軌跡
夏休み前の午後、雪乃は校庭の片隅で一人、指先の冷たさを確かめていた。
「もっと……うまく制御できるはず」
小さく呟く。カード大会での広範囲時間凍結はうまくいったが、指先の感覚はまだ不安定だ。微かな震えや手応えの違いで、力の制御が左右される。
結衣が近づく。
「雪乃、また練習してるの?」
「うん……少しだけ。昨日のカード大会で、もっとできる気がしたの」
結衣は微笑む。
「じゃあ、私も手伝おうか?」
雪乃はうなずき、二人で小さな氷結の実験を始めた。
指先から作る氷の結晶。雪乃は微細な温度差を操り、氷の強度や形を変化させる。結晶が空中で組み合わさり、小さな氷の彫刻のようになる。
「これ……超イオン氷……かも」
雪乃の声が震える。手のひらの冷たさが、ただの凍結ではなく、分子レベルで制御される感覚を伝えていた。
校庭の隅では、風に舞う落ち葉や小石も凍らせる実験をする。時間凍結はまだ広範囲で使うほどではないが、部分的な応用ができる。手首の角度や指先の圧力で、氷の生成速度を変えられることもわかった。
「これなら、日常でも応用できる……」
雪乃は心の中で小さく笑う。氷結支配の力が、単なる戦闘用だけではなく、生活の中でも役立つことを知ったのだ。
その日の夜、雪乃は帰宅途中に小さなトラブルに遭遇する。公園で遊ぶ子どもたちのボールが道路に転がり、危うく車が避けられそうになる。
「……ちょっと待って!」
雪乃は手をかざし、空中でボールを凍らせる。時間がほんの一瞬止まったように見え、ボールは安全な場所に移動する。車の運転手も驚きつつ感謝の視線を送る。
「やっぱり、力は使い方次第だな……」
雪乃はほっと息をつく。能力を使うことは、怖いだけではなく、役立つこともある──その小さな実感が胸に残った。
帰宅後、日記を開く。
「今日は……少し進化できた気がする。超イオン氷……まだ形だけだけど、これからもっと強くなるかもしれない」
指先の冷たさが、心地よい達成感をともなって残る。雪乃の世界は、日常の中で少しずつ拡がっていた。
夜空に浮かぶ星を見上げる雪乃。手をかざすと、微かな氷結の光が指先で瞬く。
「この力で……もっと色んなことができるかもしれない」
小さな希望と好奇心が胸に芽生える。氷結支配の力は、まだ未完成。けれど日常と非日常の境界で、雪乃の世界は凛と輝き始めた。
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