第6話 氷結支配の舞台
校庭に特設のリングが組まれ、学園恒例の「能力カード奪取大会」が始まった。
観客席には生徒たちの熱気が溢れ、歓声が校庭いっぱいに広がる。雪乃は指先に微かに冷気を宿し、心を落ち着ける。
「雪乃ちゃん、頑張って!」
結衣の声が後押しする。雪乃は軽く頷き、リング中央に立つ。目の前にはクラス全員、いや学園中の能力者が集まっていた。今日は誰もが全力でカードを奪い合う日だ。
笛が鳴り、ゲームが開始される。
雪乃はまず周囲を見渡す。手のひらに集中すると、氷の冷気が指先から広がり、微かに時間を凍らせる感覚が身体に伝わる。
「……これなら、全員に対応できる」
雪乃は心の中で小さく呟き、指先を軽く動かす。
瞬間、周囲の動きがわずかに遅くなる。雪乃の広範囲時間凍結が発動したのだ。カードを持つ生徒たちが同時に一瞬止まり、空気は静寂に包まれる。観客は息をのむ。
「わ、世界が……止まった……!」
誰もが口をつぐむ中、雪乃は冷たく光る指先でゆっくりとカードを集める。
動きを止めている間、彼女の頭には戦略が走る。誰が手を伸ばし、誰が逃げるか。全員の位置、手の動き、カードの場所──氷結支配の力で、すべてが把握できる。
時間を解放すると、一斉にカードが雪乃の手元に集まる。観客席からは歓声とどよめきが同時に湧き上がる。
「雪乃……本当にすごい……」
「怖いけど、圧倒される……!」
生徒たちの声が校庭に響く。雪乃はわずかに微笑む。力を誇示したわけではない。ただ、全員の動きを止め、ゲームの進行を安全に整えただけだ。
玲奈もリングに近づき、雪乃の手元を見守る。
「やっぱり……あなたは別格」
玲奈の氷の結晶が空中で揺れ、雪乃の冷気と微かにぶつかる。互いの力を確かめ合う、静かな緊張感。
観客席では、結衣が拍手を送りながらも息を飲む。
「雪乃……怖いくらい強いけど、やっぱり凄い……」
雪乃はその声に少し照れくさそうに目を伏せる。
カードイベントが終わり、雪乃は全員に向かって頭を軽く下げる。
「みんな、お疲れさま」
氷結支配の力は、ただ一瞬の静止を作るだけでなく、観客に安心感を与えることもできる──その初めての実感が、雪乃の胸に小さな誇りを生んだ。
夜、雪乃は日記を開く。
「今日のカード大会、怖かったけど面白かった。力があるだけじゃなくて、どう使うかで全然違うんだな」
指先の冷たさを確かめながら、雪乃は微笑む。能力を持つことの責任、そして楽しさ──両方を知った一日だった。
窓の外には、夕陽に染まる校庭と、観客のざわめきが遠くに消えていく。雪乃の氷の力は、この学園で少しずつ、人々の記憶に刻まれ始めていた。
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