第2話 全力で駆け抜けろ!

 夏の日差しがジリジリと照りつける陸上競技場。

 その陸上競技場の観客席の一角には、ひより・あかね・カレンの姿があった。


「すずか、もうすぐ出番だよね!」

 ひよりがわくわくと声を弾ませる。

「アンカーって責任重大だね……」

とあかねが真面目に呟き、

「でも、すずかなら絶対大丈夫っしょ!」

とカレンが気楽に笑った。


 グラウンドでは、ユニフォーム姿のすずかが深呼吸を繰り返していた。

 ――よし、落ち着け。

 自分に言い聞かせるが、胸は早鐘のように鳴り響いている。

 仲間のバトンを受け取り、最後にゴールへ飛び込むのは自分。

 『絶対に負けられない!絶対に勝つ!』



 スタートの合図が鳴り、レースが始まった。

 歓声が渦巻く中、次々にバトンが繋がれていく。

 そして――すずかの番が来た。


「行けーっ! すずかーっ!」

 ひよりの声が届いた。


 すずかは全力で走り出す。

 風を切る音、地面を蹴る感触、視界の端を流れる競争相手。

 だが焦りすぎて、一瞬バランスを崩しかける。


 ――ダメだ、転ぶ!


 その瞬間、耳に飛び込んできたのは仲間の声だった。


「すずか、がんばれーっ!」

「落ち着いて、いつもの走りを!」

「ファイトだよーっ!」


 観客席から必死に叫ぶ3人。

 その姿に背中を押され、すずかの足は再び力強さを取り戻した。


 最後の直線――ゴールへ駆け抜ける。

 結果は僅差で2位。

 肩で息をしながらゴールに立ち尽くしたすずかの目から、悔しさの涙が溢れた。


「ごめん……勝てなかった……」


 だが、駆け寄ってきた3人は、声を揃えて、すずかに言った。


「「「すずか、めっちゃ、かっこよかったよ!!」」」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 帰り道、夕焼けに照らされながら、すずかは小さく拳を握る。


「次は――絶対に勝つから!」


 仲間の声援を背に、彼女の決意はより強く輝いていた。

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