青い空の下、いつもの場所で

小阪ノリタカ

第1話 いつもの砂浜

 夏休みの午後、潮の香りを乗せた風が吹き抜ける。

 ひより、すずか、あかね、カレンの4人は、学校からちょっと歩いた所にある砂浜にやって来ていた。


「わぁーっ!海だーっ!」

 制服のスカートをひるがえして、ひよりは勢いよく波打ち際へ駆け出す。


「ちょ、ひより!走ったら靴まで濡れちゃうって!」

 慌ててひよりを追いかけるすずか。

 あかねは額に手を当てて溜め息をつき、カレンは肩をすくめて笑っている。


「……ま、まあ……ひよりのことだから、いずれ、こうなるとは思っていたけどね……」


 砂浜にはカニが走り、波の音に混じって笑い声が響く。

 4人は砂浜で貝殻を拾ったり、波に足をつけたり、思い思いに遊んでいた。


 やがて、ひよりが大きく手を振って叫ぶ。

「ねぇ!みんな!夕日をバックに、みんなで全力ダッシュしよ!」


「はぁ?なんでそんなことをしなきゃ……」

とあかねが呆れる。

「ま、でも『ザ・青春』って感じで、なんか面白そうじゃん!やろやろ!」

とカレンが即賛成。

「もう……カレンがそう言うなら……やるか!」

と笑いながら、すずかも並んで一緒に走り出す。


 オレンジ色に染まった砂浜を、4人の影が並んで駆け抜けた。

 しかし、調子に乗ってはしゃぎすぎたひよりはバランスを崩して転ぶ。


「ちょっ!ひよりっ!大丈夫っ!?」

 3人が慌てて駆け寄ると、ひよりは砂だらけの手を振って笑った。


「へへへっ、ちょっと擦り剥いちゃって痛いけど、平気!平気!」


 膝を擦り剥いているのに、彼女はいつもの明るさを崩さない。

 あかねがタオルを差し出し、すずかが絆創膏を貼り、カレンが「前からずっと思っていたけどさ……ひよりって、ドジだよねぇ…!」と笑う。


 夕日が水平線に沈みゆく中、ひよりは小さな声で言った。


「……また明日も、みんなで遊ぼうね!」


 その言葉に、3人は顔を見合わせ、微笑んでうなずいた。


 オレンジ色の空と、砂浜に残った4つの足跡。

 それは、この夏の友情が確かに始まっていることを示していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る