003 アルケー一族

 ヴァンパイアの真の始祖アタナシオスは妹のラミアーと共に、

長男アナンケー

次男イアペトス

三男ネオ

長女オメガ

四男アレス

次女イリス

五男ゾーイ

を授かった。


後に判明するのだが、アルケーの子供たちは人間で言えば15歳から24歳前後で不老となるようだった。故に、兄弟といっても見てわかるような年齢差はなくなっていく。ただ、五男のゾーイには成長の遅延が見られ、いつまでも人間の少年のように弱弱しくアルケーに似つかわしくない特徴が見られた。


 アルケー一族待望の第一子として誕生した長男アナンケーは冷静沈着で誰にも干渉しない、命を下せば要望以上の成果を上げるが、何事にも情熱が感じられず掴みどころがないという性質だった。

アタナシオスが望んだ理性と知性を備えた優等生ではあるが、ある意味残忍性で言えば兄弟一で、しかしそこにあるはずの衝動もなかった。一族の跡取り、部隊の長という点では申し分ないが、アタナシオスにとっては「信頼性」で言えば自身の[バレ従者]であるレオンに劣ると感じていた。


 次男のイアペトスは力を増すごとに反発し兄と対立するばかりでなく、アタナシオスの配下のモンスターたちを容赦なく扱うような獰猛さがあった。より力を欲してヴァンパイアとしての強さに磨きをかけていく次男。その性質故に乱暴を働き、無慈悲に配下の者を扱うので、その度にアタナシオスやレオンが力づくでたしなめるが懲りる様子はない。だがこうした性質は、一部のアルグル、ウルフの中にでさえ心酔されるほどの扇動力があり、一族に対する愛情というものは誰よりも強いとも受けとれた。それでも父アタナシオスにとっては油断ならない存在であった。


 三男ネオと長女オメガの双子の存在はアタナシオスの安らぎだった。

この双子は生来魔術を扱った。アタナシオスは魔術を毛嫌いしていたが、彼等の魔術は清らかで美しく、そして懐かしさを憶えるものだった。アタナシオスはこの子たちの行く末を案じていた。他の兄弟とは違って明らかに弱い。吸血を拒むため死んだ人間や動物の血肉から僅かな血筋を得て、生きる方法を探した。そのせいで俊敏な動きや強大なパワーは発揮できない。だが、何故か次男がこの二人を愛しよく守っていたのでそこは安心材料となっていた。


 四男アレスは決して反発するような子ではなかったが、戦い方や行動、見た目の異質さがどうしても気に障った。

アルケーの一族は皆白い肌だが、四男の肌はうっすらと産毛が生えている。双子はそれを黄金の産毛などと言い自然の恩恵だと愛でるようにアタナシオスへすすめるが、兄弟よりも大きな牙、瞳の色の黄金色がどうしても気に入らない。虹彩が丸瞳孔で、まるで病んでいるように見えた。

また、自分が目をかけないせいもあるが、ことごとく次男に無下にされ怪我を負わされるばかりで抵抗しない、そんなところもアタナシオスにとっては不快であった。


 次女イリスは、日々豪奢に派手に振る舞い、無慈悲に人間を襲った。

常に母ラミアーの側に侍り狂気に充ちたパーティーを開いては、人間や弱小のモンスター、動物などを残虐な遊びで弄んだ。こうした理性の欠片もない行動に、苛立ちを募らせるアタナシオス。

また、邪悪な魔術を母親から教育されていることが分かり、激しく嫌悪した。辞めるように説き伏せようとしたが逆上、錯乱し手が付けられない状態になる。

次女は父の愛情が足りないせいで魔術の助けがいると言うのだ。

ほくそ笑むラミアー、アタナシオスはこの娘を静観することを選んでしまう。


 ヴァンパイアと言うモンスターの血脈のせいか、一族はバラバラで内部でも常に対立が激しい、とても[古代の魔女キルケー]への復讐どころではなかった。

アタナシオスのストレスは日に日に募るばかり。


そんな中、五男が誕生する。

アルケーの五男ゾーイを出産し、ラミアーは死に至った。

母を知らない故にこの子は母よりも祖父母への憧れが強く人間になりたいと願っている。また、この子は生まれたばかりの頃は吸血していたが牙も片方しか伸びず、成長するほどに吸血の欲求が薄くなっていった。

アタナシオスはこの事実を隠し、レオンにでさえ秘密にした。

本人も周りも、五男のゾーイが祖父母を愛するがあまり吸血を好まないのだと思っていたのだった。

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