第2話
旅を続けたユルドは、南方の
石造りの高い城壁に囲まれた街は、人と物で賑わい、父から聞いた通り傭兵ギルドの本拠地がある。
さすが、交易都市だけあってか、それなりに栄えている。
目につくのは人族にも見えるが、頭から黒い角を生やし、瞳が深紅の人。魔族だ。他にも、頭から動物の耳を生やし、お尻の付け根からは動物の尻尾らしきものを生やしている。
なるほど。これが父さんの言っていた魔族と獣族か。
竜族以外の魔族のことは父さんから学んだ。獣族は昔から人族との交流は盛んであるが、身体能力が高いため、人族の奴隷として肉体労働を強いられていると聞いている。しかし、道を歩く獣人は綺麗な服を着ていて、皆談笑したり、明るい表情をしている人が多いように見える。時間が経ちすぎていて、父の情報も少し変わっているようだ。
また、魔族は魔力が高く、魔法の扱いに長けている。竜族には及ばないものの、平均的に人族より10~15倍の魔力を持っていると父から学んだが、これも時間がたった今ではどう変わっているか分からない。
父が言うにはエルフ族という精霊と契約を交わし、精霊術を使う種族も居るという。普段は表立って出てこないから父も持っている情報が少ない。
分からないことが多すぎる…注意が必要だ。
ユルドはひとり静かに気を引き締めた。
黒装束の少女は人波を避けるように歩き、やがてギルドの木製の扉を押し開いた。
中は酒場のような喧噪。依頼を待つ傭兵たちが肩を組み、笑い、剣を叩き合っている。
「そちらの方、道に迷ったのですか?」
カウンターにいた受付嬢がユルドに声をかける。
ユルドは躊躇せず答えた。
「傭兵として、登録したい」
その瞬間、周囲の笑い声が止んだ。
黒髪の小柄な少女が、真剣な眼差しでそう告げたのだ。
ざわめきが広がり、誰かが鼻で笑った。
「こんな細いのが傭兵? 冗談は寝て言えよ」
だがユルドは、冷静にもう一度受付嬢に伝える。
「私は本気だよ。少なくともそこらへんの男よりかは強い。」
静かに腰の刀を抜き、逆手に構えた。
研ぎ澄まされた殺気が場を凍らせる。
「腕は……試してもらえばいい」
受付嬢は目を見開き、やがて小さく頷いた。
「なんの騒ぎだ」
2階から1人の大柄な男が降りてくる。
「ビルトさん!」
「ギルド長…!」
誰かがビルドさんと呟き、その次に受付嬢がそのビルドさんという人がどういう人なのかを分かりやすく教えてくれた。
スキンヘッドの頭には痛々しい大きな傷跡があり、平均より遥かに大きい体はほとんど筋肉で構成されているようだ。それくらい体格がいい。
それでも少しこの男がユルドから見て可愛く見えるのは、ユルドより遥かに弱いからか、頭部から生えるネズミの耳らしきものとおしりの付け根から生えるネズミの尻尾らしき物のせいだろうか?
この男が登場した瞬間、雰囲気はパキッとした緊張感のあるものに変わった。
つまり…偉い人、なのかな??
周りの雰囲気を察するに、そう思うほか無かったが、何せ常識は知らないのだ。
「なるほど、お前か。お前は、男か?いや、女??」
なんて失礼な、、。
さすがの傭兵たちも私と同じ気持ちだったらしい。
1人が笑いだし、それに釣られ大勢が笑い出す。雰囲気は少し砕けたものへと変わった。「確かに性別わからねえ」「身長高いけど細いんだよな」とみんなが次々と私に失礼な言葉をいうものだから、少しイライラしてしまう。
「女ですね」
いけない、声に出てしまった。
不機嫌な口調だと声に出した後に自分で思う。
「そうかそうか!悪いな!」
ガーハッハッハッと豪快に笑う男。
「じゃあ、いつもの"アレ"するぞ!!」
男は、ビルドは受付嬢に目配せをする。
周りの傭兵は「あー、"アレ"ね」と言った感じで、"アレ"が何か分かっているらしい。
「言葉だけじゃなんとでも言える。やっぱり傭兵は結果を挙げてこそだ!……てことで試験として1つ依頼を受けてもらう!」
試験なんて必要ないのに。
仕方ない。ここは素直に従ってスムーズに傭兵になって、お金を貯めて、旅に出るんだ。
私は周りから注目され、目立つことが好きではない私はあまり気乗りはしなかったが、渋々了承した。
こうして、ユルドは試験として盗賊退治の依頼を任される。
——これが「黒猫」の始まりだった。
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