第4話 市場デビュー!? 野菜が金貨に化けました

 翌朝。

 畑で採れたばかりの真っ赤な実を抱えて、アヤとレオンは近くの街へ向かっていた。


「えーと……ほんとに売るの? これ」


 アヤは腕いっぱいの野菜を抱えながら、不安げに問いかける。

 自分としては、昨日みたいに食べて栄養補給できればそれで満足だ。

 わざわざ街に行くなんて大ごとにする必要はないと思っていた。


「もちろんだ、師匠!」


「だから師匠じゃない!」


 即座にツッコむも、レオンは聞く耳を持たない。

 彼はすっかり「農業=最強説」を信じ込み、「師匠の偉大さを世に知らしめるんだ!」と鼻息荒くしていた。


◇◇◇


 街は石畳の道と木造の建物が並ぶ活気ある場所だった。

 露店の行商人たちが威勢よく声を張り上げ、冒険者風の男たちが行き交っている。


「うわぁ……異世界って感じ……」


 きょろきょろと見回すアヤの腕の中、収穫した野菜がキラキラと輝いていた。

 その異様な輝きに、周囲の人々が次々と足を止める。


「おい、あれ……野菜が光ってないか?」

「まさか魔導具か?」

「いや、あれは……ただの作物?」


 ざわめきが広がる中、レオンが胸を張って宣言した。


「皆の者、聞け! これは師匠──アヤ様が育てし神の作物である!」


「言い方ァァァ!」


 アヤの悲鳴も虚しく、人々の視線は一斉に集まった。

 通りがかった商人が値踏みするように近寄り、恐る恐るトマトを手に取る。


「ふむ……これは……ただの果実ではないな」


 ぱくり。

 一口かじった瞬間、商人の体がぴかっと光を放った。


「……お、おぉぉぉ!? 力が……力が湧いてくるぞ!?」


 その叫びに周囲がどよめく。

 冒険者たちが色めき立ち、口々に叫んだ。


「売ってくれ! いくらでも出す!」

「その実さえあれば、ダンジョン攻略も楽勝だ!」

「俺に先に譲れ、こいつは金貨五枚払う!」


「いやいやいやいや! 五枚!? 野菜一個で金貨五枚!?」


 アヤは腰を抜かした。

 現代の感覚でいえば、トマト一個が数百万円の値段で売れたようなものだ。


「……やはりな。師匠の力は、世を救う!」


「救わなくていいから! 私はただ畑仕事してたいの!」


 必死に否定しても、冒険者や商人の群れは収まらない。

 レオンはすっかり勝ち誇った顔で、アヤを掲げるように指し示した。


「皆の者! 師匠の畑は、この世界の未来だ!」


「やめろぉぉぉ!!!」


 アヤの悲鳴が、市場の喧噪をかき消すように響いた。


◇◇◇


 こうして。

 「最弱農機スキル」を持つはずのアヤは、初めて街に出ただけで一躍注目の的となってしまった。


 ──望んでいた平穏な農業ライフは、ますます遠ざかっていく。

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