第3話 弟子入り志願!? 農業=最強説

「師匠! どうか俺を弟子にしてください!」


 夕暮れの草原に、レオンの声が響き渡る。

 膝をついたまま、彼は真剣な眼差しでこちらを見上げていた。


「……いやいやいやいや! だから師匠とかじゃなくて! 私はただの農家だって!」


 アヤは全力で否定する。

 だがレオンは一歩も引かない。


「俺は剣の才がなく、騎士団を追い出された落ちこぼれだ。だが、君の戦いを見て確信した。力の源は剣でも魔法でもない……農業だと!」


「その発想はどこから来たの!?」


 ツッコミ疲れしつつも、アヤはため息をついた。

 ──まぁ、でも一人でいるよりマシか。

 この世界のことを知るためにも、案内役はいたほうがいい。


「……分かった。じゃあ畑仕事、手伝う? それで納得してくれるなら」


「おおっ! もちろんだ!」


 こうして、二人は並んで畑を耕すことになった。


◇◇◇


 アヤがクワを振るえば、土は驚くほど柔らかく耕される。

 その隣でレオンは慣れない手つきで汗を流しながら掘り返していた。


「ふぅ……剣より重労働だな……!」


「いや、剣より農業が重労働ってどういう人生送ってきたの」


 そんな掛け合いをしつつ、種を撒く。

 数分後、いつものように芽が出て、にょきにょきと育ち、みるみる実をつけた。


「……すげぇぇぇぇぇっ!?」


 レオンは目を剥き、熟れたトマトのような赤い実を手に取った。


「これが……師匠の力か……!」


「だから師匠じゃないってば!」


 止める間もなく、レオンは豪快にかぶりついた。

 瞬間。


「──っ!」


 光が彼の体を包み込む。

 筋肉が引き締まり、傷が癒え、目の奥がギラリと輝いた。

 そして表示されたステータス画面には──【攻撃力+150】【体力+100】の文字。


「な、なんだこの力は……! 剣を握る手が震えるほどに……みなぎる!」


「……やっぱりね。食べたら強化されるんだ、この作物」


 アヤは内心で冷静に分析していた。

 けれどレオンは完全に勘違いしている。


「師匠! 俺は生まれて初めて、自分の剣が剣らしく思えた! 農業こそ、最強の修行法だ!」


「いやいやいや、だから農業は修行じゃなくて生活だからぁぁぁ!」


 必死で否定するアヤをよそに、レオンは燃える瞳でクワを掲げる。


「俺は誓う! 師匠と共に畑を耕し、この力で必ず世を救うと!」


「……なんで農業で世界救う話になってんの!?」


 夕陽の下。

 勘違い騎士と農村JKの奇妙な師弟関係が、今ここに始まった。

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