ラグ君の運勢アップ大作戦ですわ!!

モンブラン博士

第1話

「どうすれば強くなれるでしょうか?」


ある日の昼間。住んでいる古アパートに訪ねてきたラグを見て、ムースは困惑した。

立ち話も何なので招き入れて紅茶を飲みながら対面で話をすることにした。


美琴は街のパトロールも兼ねた買い物でこの場にはいない。


両足をそろえて背筋を伸ばしたよい姿勢で椅子に腰かけるラグは先ほどからお茶菓子のスコーンにも紅茶にも手をつけようとはせずに、今にも泣きだしそうな顔でこちらを見ている。


すると、彼の大きな緑の双眸が潤んできた。

細い眉は下がり唇は微かに震えている。


「黙っていてもわかりませんわよ。用件を話してほしいですわ」


泣かれたら困るので促すと彼はムースに口を挟む間も与えないほど一気にまくしたてた。

彼の話をまとめると、どうやら強くなりたいということらしい。


先ほど玄関で聞いた内容と違いはないなと思いながらムースは唸った。

なんでわたくしに? という疑問は浮かぶものの、彼の気持ちは理解できる。


ラグはメープルやスター流の役に立ちたくて強くなりたいと考えている。


彼が仕えるメープルはムースにとっても姉のような存在だから、彼女のためになるならぜひとも協力したいとは思うのだが、そもそもムースはラグを弱いとは思っていない。


宇宙生まれの執事型アンドロイドが地球の敵に負ける道理がないのだ。

その旨を伝えると涙を流しながらブンブンと首を横に振って。


「僕は負けて破壊されてばかりで皆様のお役に立てていないのです」


破壊されてばかりいるという点に関しては同意できた。

彼が脆いのか対戦した相手が強すぎるだけなのかはわからないが、彼が戦闘に出る度に無残に破壊されて終わる。


あまりにも頻繁に壊れるものだから、修理に手間がかかるのではないかとムースもさりげなく気にしていた。


まずは負けることよりも破壊されない対策を考えたほうがいいだろう。

それならば仮に敗北しても修理は最小限で済むからだ。


「ラグ様はこれまでにどんな相手と戦ってきたんですの?」


HNΩにキングサイに赤鬼……彼が列挙する名前を聞いたムースは顔をひきつらせた。


「見事に強敵ばかりですわね」


全員がラスボス級であり、仮に助けがあったとしても単独で挑もうとは思わない。

強敵を恐れることなく挑むこと自体は勇気の現れだが、無謀とも言える。


頭を活性化させるために紅茶を飲んでジャムをつけたスコーンを頬張る。


手作りのスコーンは今日も上出来だと思ったのだが他人が食べてどう思うかは別物であり、アンドロイドに食べ物の味がわかるのか不安はあったが冷めない間にと促すとラグは静かに素直に食べ進め、やがて満面の笑みを浮かべた。


「大変美味でございました」


彼の言葉を聞いてムースは安心した。

これで美琴にも喜んでもらえる。


不安が消えたことで思考の海へ潜った結果、運気を上げたほうがいいという結論に達した。


自身も食べ終わって椅子から勢いよく立ち上がるとムースは言った。


「おみくじを引きに行きますわよ!」


ムースはラグの手を引いて近くの神社へと向かった。


薄いピンクのゴスロリに赤のカチューシャ、金髪碧眼の美少女と白の執事服を着た美少年が手を繋いで歩いている姿は傍からはカップルに見えるかもしれないが、他人の目などムースにはどうでもよかった。自分は美琴一筋である。


神社に到着したふたりはさっそくおみくじを引いてみる。


「だ、大凶……」


引いたくじの内容に沈むラグにムースは背中を叩いて言った。


「まだ一回目ですわよ! 大吉が出るまで何回でも引けばいいですわ!

お金はまだまだありますもの!」

「そうですね。やってみます」


ムースの言葉にやる気を出してその後もくじを引き続けたラグだったが、その全てが大凶だった。


「恐るべき運の悪さですわね」


ちなみにムースは大吉ばかりだった。


これでは相性の悪い敵と戦うのも当然だと思ってムースは嘆息し、ため息を吐きながら泣きそうになっているラグに自身のくじを差し出した。


「わたくしのを差し上げますから、これで運が回ってきますわよ」

「ありがとうございます、ムース様っ!」


いきなりのハグに動揺しながらも、なんだか弟ができたような気がしてきて、深い微笑みを浮かべながら彼の背に手を回して優しく抱きしめた。


柔らかな茶色の髪は滑らかで幼さの残る顔立ちも掌から伝わってくる背中の温かみも作り物とは思えない。スター流の技術レベルにムースは改めて驚嘆しつつ、こんなに可愛らしいのだからメープルが愛するのも当然だと思うのだった。


おしまい。

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