第15話 孵化

「全部で5匹か。」


(この数字は確率的にどうなんだ?)


「「かわいい〜!」」


 女性陣はすでに雛の可愛らしさに骨抜きにされたようだ。


 3人で集めた計20個の卵のうち5個が孵った。

雛の所有権は卵の時点で決まっており、雛はそれぞれの主人のもとに集まってくるようだ。


「一匹か…」


 俺に向かって、つまずきながらも懸命に歩いてくる雛を見ていると、なんとも言えない気持ちになってくる。


(さすがに、これを戦わせるのは気が引ける…)


 しかし、いくら可愛くても対空戦力の整っていない現状では使わざるを得ない。

獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすとも言うし、心を鬼にして育てる他ないだろう。



 俺の卵から孵ったのは【森林ハヤブサのヒナ】が1匹。


 ルリさんは【森林スズメのヒナ】が2匹、【森林ツバメのヒナ】が1匹で計3匹。


 シズさんは【森林ツバメのヒナ】が1匹だった。


 名前的には俺のハヤブサがこの中での生態系トップだが、他に何が出るのだろうか。

ソシャゲのガチャのようで、ワクワクしてしまう。


(でも、鳥の雛の餌と言えば虫だよな…)


 現実と同じようなものを食べるとすれば、ペットショップとかで売ってる専用エサが無い以上、虫を手掴みで与えるのかもしれない。


 とりあえず、エサの件は保留ということにして、雛たちはインベントリに突っ込まれた。



「このあとどうする?」


「はいっ!町に戻りたいです!」


 卵の孵化作業はひと段落し、今後の予定をパーティー内で話し合う。

俺としては、このまま卵ガチャのため、レベル上げも兼ねて森の深いところで卵を狙いたい。

しかし、女の子二人は一度町に戻り、装備を整えたいらしい。確かに、今の装備では森の深いところは厳しいという意見も理解できる。


 結局、多数決の結果、町に戻る事となった。


◇  ◇  ◇  ◇


「鳥の餌とかって売ってたりします?」


 パーティーメンバーと別れ、現在俺は1人馴染みの雑貨屋を訪れている。


「あら、もしかして鳥の卵孵したの?でも、残念だけど、ウチでは鳥の餌扱ってないのよ。」


 ここ2日間何度も通い、顔馴染みになったということもあって、雑貨屋店主の言葉も最初に比べてだいぶん砕けている。


「じゃあ、どこで売ってるとか教えていただけたり?」


「う~ん、普通は教えてあげないんだけど、お得意様だし…どうしようかしら。」


 一見さんお断りの店らしく、紹介状がないと入店お断りとのことだ。


「今後もこの店利用させていただきますんで、そこを何とか!」


 ここから何度もお願いしたことで…


「そこまで言うのなら、紹介状書いてあげるわ。」


「本当に、ありがとうございます!」


 店主との攻防を制し、ついに紹介状をいただくことに成功した。

これが、今後もこの雑貨屋にお世話になることが決定した瞬間であったのかもしれない。



「ここか。」


 パーティーのお二人はもう少し時間がかかるらしい。紹介状も一つしかないので俺だけで買うことにした。


『モンスターショップ メイ』


 大通りから一本入った路地にひっそりと佇むこの店が、今回の目的地らしい。


「ごめんくださーい…」


 店に入ると顔色の悪い店員が出迎えてくれた。


「初めて見る顔だね。誰の紹介だ?」


「えっと、ミリーさんです。雑貨屋の。」


 今日初めて知った雑貨屋の店主の名前を告げ、紹介状を差し出す。


「ほーん、紹介状は本物のようだな。まあ、いいだろう、好きに見ていくといい。」


 店員に言われた通り、雑多に物が並んでいる店の中を見て回っていると、


「これか、鳥のエサ(ヒナ用)。」


 やっと、目的の物を発見した。店員の元に持っていく。


「会計お願いします。」


「はいよ。」


 無事会計も終わり、店から出ようとすると、


「ヒナ用のエサ買っていくってことは、鳥の卵を孵化させたのかい。」


 話しかけるなオーラを放っている店員になぜか話しかけられた。驚きつつも、


「ええ、実はそうなんです。パーティーで合わせて5匹。」


「5匹か。南門の近くの森だろう?何が生まれたんだい?」


「スズメとツバメとハヤブサです。」


「ハヤブサか!いいのが生まれたね。ハヤブサなら違うのエサのほうがいい。ちょっとそこで待っとけ。」


 まくし立てるように言いたいことを言った店員は店の奥に行き、新たなエサ袋を持ってきた。


「これがいい。」


「えっと、おいくらですか?」


「お代はいらん。あんた、テイマーだろ?それなら次もここに来るだろうからな。サービスだ。」


 店員のご厚意をありがたく受け取り、店を出ようとすると再び、


「鳥の卵は森の中心に近づけば近づくほど、いいモンスターが生まれやすいぞ。あと噂話だが、あの森、竜種の卵も見つかるらしいぞ。」


 追加でありがたい情報までいただき、礼を言いつつ今度こそ店を出た。



「おっ、いい感じだな、二人とも。」


 今までの防具とは明らかに輝きの違う防具を全身にまとった2人と合流する。


「いや~、いい買い物でした。これ、クロガネさんの防具よりも上位の防具ですよ!」


「ふふん、どやぁ…」


 俺は現在の防具性能にあまり不満がないので今回は変えないが、自分の全体的に薄汚れてボロボロな防具を見返すと新しい防具を買ったほうがいいのか悩む。


「じゃあ、装備も整ったことだし、再び森林に挑戦だ!」


「「おおー!」」

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