第七話 言葉の弾丸
ダッシュで戻った中庭に、やはり修子はいなかった。
一体どこに行ったのか、迷うほどのことはない。修子が僕のパソコンを拉致して向かう先は、ひとつしかない。
受付室。
パソコンを手放してしまった僕は受付室の場所がわからなかったが、他の生徒たちの動きを見れば予想はつく。人の流れを読むんだ。
式館の隣の校舎に、人の出入りが集中している。
「あそこだ!」
僕がトイレに行っていた時間はほんの数分だ。今なら間に合う。修子、僕は『アダルト科』だけは嫌だ。この際、他の科目なら何でもいい。アダルトだけは、エロだけは、どうか――
「間に合って!」
「お、イツキ。遅かったな」
と、受付室の入り口から修子が出て来た。左腕に装着されたノートパソコン。そして右手にもノートパソコン。
「修子、まさか僕の分まで申し込みをしてきたんじゃ……」
「ん? どうして分かった?」
あああぁっ! やっぱり!
「アダルト以外にしたんだよね!? さっきの僕の話、聞いてたよね?」
「うん、聞いてた」
ふう、良かった。修子はそこまで鬼じゃなかった。高校三年間、ずっと同じクラスで過ごしてきたんだもんね。そのくらいの意思疎通はできて当然だよね。
「で、どの科にしたの? 勝手にやったのは怒らないからさ、エンターテインメント? イラストレーション? この際、何でもいいよ?」
「アダルト科」
「どうしてそうなったぁ!?」
修子はやっぱり鬼だった。高校三年間、ずっと同じクラスで過ごしてきて知ってた。修子は空気を読まない。独自のワールドが発動すると、周りを見ずに弾丸のように突っ走る。
「イツキ、おめでとう。今日からイツキもエロフェッショナルだ」
そう言ってパソコンを手渡してくる修子。泣く泣くそれを受け取る僕。
それにしたって、この学園も鬼だよ。いくら自分のパソコンを手放してしまったとはいえ、他人の申し込みまで受け付けちゃうなんてさ。受付の人も、パソコンを二台持ってる修子に確認とかしなかったの?
「一応、聞かれたぞ。本当にアダルト科でいいのかって」
「じゃあ、どうしてこうなったの!?」
「でも、イツキのハンネを見せたら納得してた」
「……??? 僕のハンドルネームがどうして納得材料になるのさ?」
僕は本名をカタカナで登録してもらっただけだよ? 「モモシロイツキ」ってアダルトな名前じゃないし、エロが似合う名前でもないのに。
僕は自分のパソコンを開いてみた。画面が起動して「ようこそ、モモイロイツキさん」と表示されている。
……モモイロイツキ?
……モモ
「なに? このピンク色なハンドルネームは!?」
「受付の人が言ってたぞ。『アダルト科にお似合いのハンドルネームですね』って」
「何かの間違いだよね? 僕はちゃんと『モモシロイツキ』って伝えてたよね?」
「ナビゲーターが入力を間違えたみたいだな」
「あの……カワイイ顔してお馬鹿でドジっ娘!」
ガルルっと睨みつけたかったが、お馬鹿でドジっ娘のコインちゃんはあれから姿が見えない。
「そんなに怒るな、勝手に決めたアタシが悪かった。体で償うから」
「体で償わなくていい!」
「とにかく心配するな。ブログは詳しくないけど、アタシはエロマスターだ。手とり足とり、裸で教えてやる」
「服は着てていい!」
この期に及んでエロにエロを重ね掛けしてくるなんて、修子の頭の中はエロばっかりだ。
「わかった、わかった。もういいよ。僕もアダルト科でやってみるから」
「ホントか!?」
嬉しそうにキラキラと目を輝かせる修子。まったく、何言ってるんだよ。もう決まっちゃったことじゃない。
「ま、僕に出来るとは思えないけどね」
「そんなことはない。イツキはやれば出来るんだ。今までだって、出来なかったんじゃない。やらなかっただけじゃないか」
「……え?」
修子の言葉が、なぜか僕の胸にズキンときた。胸の内をえぐるように、モヤモヤしている部分に風穴をあけるように、修子の言の葉が弾丸になって僕の胸を撃ち抜いた。
――イツキは出来なかったんじゃない、やらなかったんだ
か。
痛いことを言われちゃったな。たしかにそうかもしれない。
僕はまじまじと修子を見た。この華奢な身体のどこに、こんなバイタリティがあるんだろう。何も恐れないし、いつもブレない。やると決めたら突っ走る。
僕には無いものを、修子は持っている。
「ん? どうしたイツキ」
「いや、修子はすごいなって……思ってさ」
「じゃ、とりあえず一緒に脱ぐか」
「脱がん!」
僕には無い、ド変態というアビリティを持っている。
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