第八話 アダルト科

 アダルト科。

 十八歳以上を対象にするカテゴリ。主にエロチシズム(エロ)や下がかった話(下ネタ)を扱うサイトを運営する。

 担当教師は……ステ

 教師もハンドルネームなのか。

「アタシたちの教室はF棟の4階みたいだ」

 修子はノートパソコンで学園の見取り図を開いていた。

 僕も真似して同じものを見てみる。

 ノートパソコンはちゃんと左腕に装着したよ。これを手放すと、どんなイタズラをされるか分からないからね。

「へえ……この学園て広いんだね」

 デジタル3Dで表示された学園案内図には、AからFまで六つの校舎と、運動棟や試験場、大きな校庭もあって、普通の学校と変わらない。そして学園施設の外側には学生寮。

 そっか。【卒業するまで帰れない】から、僕らが住む寮も用意されているんだね。

 と――そこに僕らのパソコンにメールの受信があった。送信者は『アダルト科担任、ステ娘』

 なになに? 「アダルト科生徒は教室に集合」だって。

「さっそく授業が始まるのかな」

 僕らは少し回り道をして、敷地内の施設を見回しながらF棟に向かった。



 F棟にはアダルト科とイラストレーション科があって、一階から三階がイラストレーション科、四階がアダルト科になっていた。

「キレイな校舎だね」

 校舎の中はピカピカに磨かれていて、塵一つ落ちていないような清潔さ。床も壁も光沢があって、まるで新築のようだった。現実世界の学校に比べると、かなり近未来的な造りだ。

 三階のイラストレーション科を通り過ぎるところで、見たことのある女の子たちとすれ違う。あれは……さっきトイレの前で見かけた女の子たちだ。

 たしか、「兎」っていうハンドルネームでアイドルみたいに可愛らしい子と、「牡丹」っていうゴスロリ服の女の子。

 二人揃ってイラストレーション科に入ったんだね。

 イラストレーション科は、主に絵(イラスト)によって視覚化表現したサイトを運営する科目。イラストレーターとか、絵師さんと呼ばれる人たちのブロガーが多いらしい。きっと二人とも絵を描くのが好きなんだろうね。自分の好きなジャンルを選択して、仲良く教室に入っていく。

 対して僕は「これだけは嫌だ」と言っていたアダルト科の教室に向かっている。

「はぁ……どうしてこうなったんだろ」

 微笑ましくも羨ましい彼女たちの姿を見て、僕は無色透明のため息を吐いた。

「ん? イツキ、どうした?」

「いや、何でもないよ」

 修子は本当に「僕がアダルト科でやれる」と思ってるのかな。同じクラスになるのは心強いけど、人には向き不向きがあるんだよ。

 そんな僕のため息と心情は、修子にはもちろん見えていない。代わりに修子が熱視線を注いでいたのは、ゴスロリ少女の背中に付いている黒い羽根だった。

「あれいいな。アタシも欲しい」

「……ウソでしょ? セーラー服にキツネのお面を付けて黒い羽が生えたら、それはもう妖狐キツネのおばけになっちゃうよ」

「それもカッコイイ! 後で頼んでみよう」

 まったく、修子の趣味は変わってるよ。中身はもっと変わってるけど。


 

 四階のアダルト科教室に入ると、僕らの他に数人の生徒がいた。金髪ツンツンでガラの悪そうな男の人、髪が長くて清楚そうな女の人、顔も身体も丸っこくてメガネをかけた男の人、

 ……以上。

「これだけ!?」

 四十くらいの席があるのに教室内はガランとしていて、これは「もしやアダルト科って人気ないの?」と疑ってしまうレベルだった。そりゃそうか。好き好んで『エロ』を選んでくる人は少ないよね。

 しかし、あの金髪ツンツンの男は『アダルト』っていうよりも『ギャンブル』とか『夜の街』っていうのが似合いそうに見える。後ろ姿だから顔は見えないけど、服装がチャラっとしてるし。

 髪が長くて清楚系の女の人も『文学』とか『習い事』みたいな真面目なジャンルが似合いそうなタイプ。スラっとして凛々しい後ろ姿からは、とても『アダルト』な雰囲気は感じられない。

 で、顔も身体も丸っこい男の人は……うん、『ゲーム』とか『アイドル』が似合いそう。

 見た目だけで判断しちゃいけないけどさ、『アダルト科』っていう割には、みんなそれぞれ他に似合いそうなジャンルがあるような気がするんだよね。

 それにしても、三人とも姿勢よく座って微動だにしないのはどうしたのかな。まるで金縛りにあったかのように正面を向いて動かない。

 その視線の先には……

「何をしている。お前たちが最後だ、早く席に着け」

 ……って、あれは

「入学式の女教師!?」

 そこには、入学式で「学園主任」と名乗っていた、いかにもベテランで、いかにもスパルタな女性教師が、金剛石ダイヤモンドでも砕きそうな鋭い視線を僕らに突き刺していた。

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