第6話 逃げろ

金縛りから解放されて机の上にあの真っ黒な封筒があるのに気付いた。

中身を見ると、『まじないをかけました、直ちに逃亡を推奨』と書かれていた。

そして、後ろにあるひんやりとした気配。


【つうち】


声だ。


透き通るような女の人の声。


まずい。


逃げろ。


本能でそう察知して部屋のドアへ駆ける。

そして階段を駆け降りリビングを抜けて玄関に続く廊下を走る。

靴に足を突っ込んで玄関のドアを開ける。

そして思い切り閉めた。


あいつはドアをすり抜けてきた。


背筋が凍るような、ぞわりとした感覚がした。


【つうち】


おどろおどろしい液体じみた姿とはかけ離れた涼やかな女声に頭が混乱する。


〈つうち〉って、あの手紙にあった〈通知〉のことか?だとしたらあの手紙の差出人はこの化け物だってことになる。


逃げる。


逃げる。


ただ、逃げる。


気付いたらあの神社の前だった。


神社なら、こういったやつは近寄れないんじゃないか?

そう思って鳥居をくぐり境内に足を踏み入れた。


意味は無かった。


あいつは神社の鳥居を丁寧にくぐってから追ってくる。なんでそこはすり抜けないんだよ。


鳥居をくぐって真っ直ぐに俺を追いかけてくる。


【つうち】


賽銭箱の前まで来て、逃げ場が無くなった。

森の方、森の方に行こう。


【つうち】


スマホが鳴る。

いつもまじないで使っていた草の生えない場所に来ていた。

反射的に出てしまった。


『通知』


機械を通して、あの声が聞こえる。


『まじないは成功しました』


燃えた。


よく燃えた。


ケタケタと嗤う声が、耳にこびりついた。

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