あとがき

このまじないは、れっきとした神事である。


彼の聞いた噂とは、その神事を執り行う家系の子供が外部に漏らしてしまった、たった一部の情報である。


彼を襲ったのは、神である。


彼を襲った神は、彼があのまじないをしていた神社が祀る、土地神である。


彼のまじないが木村透に効かなかったのは、彼が特異体質だったからである。


神を寄せ付けぬ体質である。


最初にまじないをかけられた遠藤光一の発見が遅れたのは、彼の込めた恨みが強かったために神隠しにあったからである。


彼が破った決まりは以下の通りである。


〈墨汁は新品であること〉


〈血液は新鮮なものであること〉


〈書く場所と燃やす場所は同一であること〉


〈お札を共に燃やすこと〉


〈一度に二人以上を呪わないこと〉


まじないが周囲に知られないようにすること〉


一度目に破ったのは三個目、四個目、そして六個目の決まりである。


二度目に破ったのは一個目、二個目、三個目、四個目、五個目、六個目である。


三度目に破ったのは一個目、二個目、三個目、四個目、五個目、六個目である。


四度目に破ったのは一個目、二個目、三個目、四個目、五個目、六個目である。


神は目溢しをした。


神主は何者かが噂を信じ、神事を中途半端に行っていることを知っていた。


何度も自身に関する決まりを破られると神は怒りを露わにした。


そして警告。


〈破るな〉


の一言。


神主は感じていた。


神の目溢しはこれ以上叶わないと。


故にお札を入れた。


〈共半紙燃可〉


これは、〈半紙と共に燃やすし〉という神主に出来うる限りの神の為すことへの干渉、そして彼への警告。


しかし彼はそれを無視した。


決まりを破った。


そして、神自らまじないをかけることによって神罰が下り、彼は燃え尽きたのである。


灰も残らぬまま。


そして最後に。


〈一度に二人以上を呪ってはならない〉


この決まりを、彼らは勘違いしていた。


〈一度〉とは「一つの生命が生まれてから死ぬまでの間に一度」ということである。


〈神の言の葉は人の枠に収めてはならない〉

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