第41話 最後のクエストが始まりました
「あれ? まだ起きてるの?」
「ベルゼか……」
夜。テント前の竈の前に座り込んでいると、ベルゼが女子用テントから出てきた。
「火がまだ残ってるし、完全に消えるまで見てようと思ってな」
「水掛ければ?」
「薪が勿体ないだろ。明日に回す訳にもいかないし、完全に燃え尽きるまで見ておく」
「貧乏性過ぎない?」
「ほっとけ」
言いながら、ベルゼが俺の隣に座ってきた。
「それにしても、麗奈ちゃんには驚いたねー」
「……お前、あいつらに似たようなこと聞かれなかったのか?」
ベルゼの言葉に、俺は突っ込まざるを得なかった。……ベルゼは麗奈のパーティとは元々知り合いのようだった。だったら、今日尋ねられたことは既にベルゼにも聞いているはずだ。
「ううん。そういう面倒そうな話題は出る前に潰してるから」
「潰してるって……」
「そういう話をされそうになったら、適当に理由つけて中座すればいいんだよ。ルシフルには難しかったかな?」
「いや、あの状況で逃げるのは無理だろ……」
ベルゼは何でもないように言うが、相手がどんな話を振って来るか事前に予測なんて出来る訳がない。いや出来たとしても、こちらの拠点に押し掛けられた以上は避けようがなかったが。……こいつ、対人経験は俺と大差ないはずなのに、やたらとコミュ力高いんだよな。明らかに交友関係広いし。
「じゃあ、あのるるかって女が言ってたことは……」
「今日初めて聞いた」
「だよな……」
とにかく、ベルゼは麗奈たちからこの手の話をされないように立ち回っていたため、あの話も初耳だったらしい。
「どう思う? 私たちの気配がどうとかって」
「……まあ、普通の人間じゃないからな、俺たち」
俺たちの気配が人間と違うということ、それ自体はおかしくもない。確かに俺たちは普通の人間とは違うからだ。鉄から火花を散らしたり、幻影を作ったり出来る人間なんて普通はいない。この世界の冒険者はそれくらいするだろうが、彼らは女神の加護によってそれらの能力を開花させているようなので、加護を持たない俺たちにその理屈は通じない。
「そのことだけど、二人には言うの?」
「俺個人の独断で言っていいなら、言いたいとは思ってる。つっても、お前やアスモの許可もいるから簡単には言えないけど」
俺たちにこんな能力があるのは、俺たち兄弟の出自が関係している。それを真由美や幸太郎に打ち明けたいという気持ちは少なからずあるが、俺一人の問題じゃないのでそういう訳にもいかない。最低でもベルゼとアスモの許可は必須だ。
「私は別にいいけどなー」
「意外だな。お前はあいつらとの付き合い短いだろ?」
「知られて困ることじゃないもん。あ、でも、死んだ理由は話すとまずいかもね」
「当然だろ」
生い立ちはそこまで大したことじゃないが、死因については話すと面倒なことになるのは目に見えていた。それもいずれ話せたらいいとは思うが、知られてしまえば今までの関係も崩れてしまいかねない。生い立ち以上に、話すのは慎重を要する。
「せっかく死んだのに、こうやってまた生きてるなんて、不思議だよね、ほんと」
「そうだな」
灯りの点かない城塞都市。光源は星と月と消えかけの焚火。そんな中に浮かぶのは、ベルゼの白い髪と赤い瞳。まるで生前のように、薄暗い地下で過ごした時を思い出させる時間だった。
◇
……一か月後。
「それでは、これよりユニオンクエストを開始する」
朝。麗奈の号令が辺りに響き渡った。
あれからというもの、俺たちはユニオンクエストを無事にこなし続けていた。麗奈たちに絡まれることもなく、平和そのものだった。強いて言えば、食事が簡素故にアスモの機嫌が悪いのが懸念点ではあった。
「長かったユニオンクエストも今日で最後だが、気を抜かないように」
そんなユニオンクエストも最終日。城塞都市を中心に色んな魔物を狩る、この日常ともこれでおさらばだ。
「今日の狩場は北の森だ。討伐対象はオーク。数は少ないがその分強力な魔物だから、十分に注意するように」
今日戦うオークは、巨体と膂力で冒険者を脅かす魔物だ。他の魔物のように群れないらしいが、その代わり個々の強さがエグイと聞いている。俺たちのパーティは火力面がかなり乏しいので、厳しい相手になりそうだな。
「それでは行くぞ」
という訳で、俺たちはユニオンクエストへと向かうのだった。
「では、各自散開」
森に着いて、本日のクエストが始まった。鬱蒼とした森の中、空気がどんよりとしていて、纏わりつくような重さを感じる。今までに色んな森に入ったが、ここの森は一段と嫌な雰囲気をしているな。
「さて、行くか」
そんな森の中を俺たちは進む。他の森以上に薄暗いのは、空を雲が覆っているからだろうか。天候まで悪いとは、何とも気が滅入る。
「……ルシフル」
「分かってる」
そんな中、俺とベルゼが敵の存在に気づいた。前方から姿を見せるのは巨大な人型の魔物。緑の肌や纏ったボロ布、棍棒などがゴブリンと似ているが、それとは違い筋肉隆々で身長もかなり高い。見上げる程の高さにある口から漏れ出す吐息は、まだ離れているにも関わらず鼻が曲がりそうな匂いが漂ってくる。これがオークか。
「行くぞ。―――
俺は刀を抜き、能力を使ってオークに斬りかかる。だが、皮膚が硬すぎて刀が弾かれた。
「ホーリーランス……!」
真由美の魔法がオークの目を直撃し、オークが苦しみ悶える。しかし消滅には至らない。
「
「
「おらっ……!」
アスモとベルゼが幻影を出してオークを翻弄し、その隙を突いて刀で斬りつける。大したダメージにはならないが、足止めとしては十分だ。
「ホーリーランス……!」
真由美の魔法が更に刺さるが、まだまだ倒せない。
「そっち行ったぞ……!」
すると、オークが俺を無視して後衛の方へと向かいだした。真由美の魔法が脅威であると理解したのだろう。
「ウォールシールド……!」
そうなれば当然、幸太郎が壁を展開してオークを阻んだ。だが、棍棒に殴られて壁が悲鳴を上げている。
「ベルゼ……!」
「うん……!」
故に、俺とベルゼでオークを斬りつけて気を引く。ダメージは低くとも気を引ければ何とでもなる。
「ホーリーランス……!」
そこへ三度目の魔法が放たれ、オークがようやく消滅する。
「ふぅ……さすがにしんどかったな」
戦闘が終わって、俺は溜息を漏らした。……事前に聞いていた通り、オークはかなりの強敵だった。疲労のせいで思わずにへたり込みそうになる。
「し、しんどい……」
何なら真由美はへたり込んでいた。ポーションを飲んで回復に努めている。
「けど、まだ倒さないとなんだよな……」
「ああ。あと4体だな」
オークの討伐数は5体以上だ。これを後四回も繰り返さないといけないのはなかなかに辛いものがある。
「何でもいいからさっさと終わらせましょう。早く帰りたいわ」
「そだねー。早くご飯食べたいなー」
一方の妹たちは帰ることで頭がいっぱいだった。その点に関しては俺も同意ではある。
「んじゃあ、ちょっと休んだらまたオークを探すか」
とはいえ、焦ってパーティが総崩れになっても困る。ペース配分を考えながら戦おう。
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