第40話 考察しました

「ほら、飯が出来たぞ。食え」

「わぁい! ごっはん、ごっはん~♪」

 城塞都市に戻って。俺たちは飯を作って夕食にありついていた。

「またスープ……」

「多分ここにいる間はずっとスープだぞ?」

 昨日と同じ献立にアスモが嘆いているが、配給される食料の都合で晩飯はスープにしかならない。精々味付けや具材が変わるくらいだ。ちなみに朝は保存食。味気よりも実用性を重視した食事だ。

「うぇ……ベルゼはよく笑顔でいられるわね」

「んー? だってご飯だよー?」

 顔を顰めるアスモとは対照的に、ベルゼは鼻歌交じりにスープを口に運んでいる。……こいつ、食えれば何でもいいタイプなんだよな。生前はそもそも食料の確保自体にそこそこ難儀していたし、それもあるんだろう。お陰で俺も割と食い物に拘らない性質だし。

「君たち、もう夕食かい?」

 すると、麗奈が俺たちのところにやって来た。その後ろには彼女のパーティメンバーもいる。

「うん! お腹空いたから!」

「ははっ、さすがは白き大食い姫だな」

「……何それ?」

 元気良く答えるベルゼに、麗奈が変なことを言った。

「知らないのか? ベルゼの二つ名だ。誰ともパーティを組まずに活動していて、いつも何かを食べているから、いつしかそう呼ばれるようになったんだ」

「そうなんだー」

「おい本人」

 いつの間にか妙な渾名をつけられていたようだが、肝心のベルゼは知らなかったらしい。まあ、二つ名の扱いなんてそんなもんなのかもしれないが。

「それで、何の用だ? あんたらに分けてやるほど飯は余ってないぞ」

「それには及ばない。私たちの分はちゃんとあるからな。……るるか」

「うん」

 麗奈に用件を聞くと、彼女の後ろから革鎧の少女が前に出た。

「紹介しよう。彼女は私のパーティ所属の中村るるかだ。ちなみにこっちは福山敦也だ」

「よろしく」

「よろ~」

 革鎧の少女るるかは素っ気ない態度だった。二人の後ろにいる騎士甲冑の少年敦也は逆に軽い感じだった。この三人でパーティなのか。

「……」

 話を聞こうと思ったものの、るるかは黙って俺たちを見つめるだけだった。ちょっと不気味で近寄り難いな……。

「どうだい、るるか?」

「……やっぱり、変な感じがする」

 麗奈に問われて、るるかはそんなことを言い出した。変とはなんだ失礼な。

「ベルゼもだけど、この二人も変な気配がする」

「変な気配?」

「……何こいつ?」

 るるかは俺とアスモを見ながらそう続けた。あまりに唐突過ぎてアスモが不機嫌になってる。正直気持ちは分かる。

「ああ、るるかは軽装戦士レンジャーなんだ。スキルで気配察知が出来てな、その気配は人間と魔物を区別可能なんだ」

「ふーん。それで?」

 麗奈に説明されるが、いまいち要領を得ない。それが一体何なのか。

「ベルゼの気配は変。人間でも魔物でもない、他にない気配がする。それと同じ気配がこの二人からもするの」

「人間でも魔物でもない、か。それは興味深い」

 るるかの話を聞いて、麗奈が値踏みするような目線を俺たちに向けてくる。遠回しに人外扱いされているということだろうか。

「という訳なんだが……君たち、何か心当たりはあるか?」

「んなこと言われてもな……」

 麗奈に尋ねられるが、困惑のせいで言葉が出なかった。心当たりも何も、るるかという女の感覚の話なんて俺に分かる訳がない。

「そうか……君たちが何かの突破口になると思ったんだが」

「突破口?」

「ああ。……私たちは、魔王に挑もうと思っているんだ」

 麗奈は急に話題を転換させた。それが俺たちの気配云々と何の関係があるんだろうか。

「魔王は魔物の国の主であり、この世界における最大の敵だ。けれど、魔王も魔物の国も情報が少ない。魔王の配下には七天王と呼ばれる七人の幹部がいるという噂があるが、それも信憑性は低いしな」

 魔王。魔物の国に君臨する存在。以前戦った七天王は魔王の配下という話だったし、とにかくヤバい奴なのは想像に難くない。

「少し前に南方王国で暴れた謎の人狼も七天王ではないかと言われているし、南方王国へ立ち入れなくなったのも七天王の仕業と言われているが……まあ、それはともかくだ。魔王に挑もうにも、この程度の情報しかない。魔物の国へ続く橋も封鎖されていて突破方法が分からないし、とにかく情報が足りないんだ」

 魔王や魔物の国に関する情報はないに等しいらしい。宗近のように自称女神から情報を与えられた者もいるが、行動制限をされているらしいから簡単には出会えないのだろう。あいつが持っていた情報も七天王関連だけだったし、麗奈が欲する情報を全部集めるのはかなりの難易度になりそうだ。

「それで、それと俺たちに何の関係があるんだよ?」

 だが、それと俺たちがどう関係するのかがいまいち見えてこない。麗奈は続ける。

「君たちの存在はイレギュラーなんだ。女神が与えたスキルに不可解な挙動を誘発させる要因。これが仕様通りの挙動であれば、君たちの存在が何かしらの鍵になる。そうでなければ、女神が作り出したこの世界に生じたバグということになる。どちらにしても、君たちは数少ない手掛かりになるんだ」

「んな馬鹿な……」

 麗奈の言い分はぶっ飛んでいた。るるかの感覚の話から飛躍しすぎだろ。人間は理由がないことにも理由を見出したがるという話は聞いたことがあるが、これもその類としか思えない。

 それに、こいつはちゃんと分かって言っているんだろうか? そのぶっ飛んだ主張が何を意味しているのか。

「勿論、無茶苦茶だとは思っているよ。けれど、それくらい手掛かりがないんだ。そして時間もあまりない」

「時間がないって、どういうことだよ?」

「最近色々ときな臭いだろ? 南方王国の一件だけじゃない。中央王国でも冒険者の失踪が相次ぐ始末だ。……これが全部魔王たちのせいだとすれば、もうそんなに猶予はないだろう。だからこそ、どんな些細な情報でも欲しいんだ」

 麗奈からは焦りを感じた。本当に切羽詰まっていて、この先を憂い、藁にも縋る思いで俺たちから何かしらのヒントを得ようとしているのが分かる。他の二人も同様なのだろう、真剣な表情で俺たちを見ている。

「……お前たちの思いは理解した。けれど残念だな、俺たちには何もない」

 けれど、俺がこいつらに助力する理由はない。勿論、俺たちは七天王の情報を持っているが、それを教えることもしない。面倒だから厄介ごとには関わりたくないし、そうでなくても教えたくない。

「そうか……悪かった、食事の邪魔をして。行こう、二人とも」

「うん」

「ほーい」

 俺の返答に、麗奈たちは踵を返して立ち去った。残されるのは、俺たち五人だけ。

「……良かったの?」

 彼らが去って、真由美が問い掛けてくる。

「何がだ?」

「だって、あの人たちって魔王を倒そうとしてるんでしょ? それなら……」

「まあ、教えるっていう選択肢もなくはなかったがな」

 彼女が言っているのは七天王の情報についてだ。宗近から教えて貰ったことや、俺たちが倒した奴らの話を聞かせるという手もあった。けれど、それは出来ない。

「じゃあ、どうして教えなかったんだ?」

「七天王を倒せるのは女神の加護を持たない者だけ。そんなことを言ったところで、あいつらが納得すると思うか?」

 彼らに七天王の話をしなかったのは、面倒だからというのが一番の理由だ。けれど、それ以外にもある。素直に話したところで、あいつらがそれを受け入れないと思ったからだ。

「あいつらは自分で魔王を倒そうとしている。けれど、その手前の七天王をあいつらは倒せない。それに、恐らく魔王というのも同じくあいつらには倒せない可能性が高い。そんなことをわざわざ言う必要があるか?」

 魔王を倒すなんて目標を掲げてる連中が、自分たちではそれを成せないと聞かされても信じるとは思えない。いや、信じて受け入れてしまった時の方が悲惨だろう。己の無力さに打ちひしがれて絶望してしまうのは容易く想像出来る。

「だから黙ってたのか?」

「まあ、そんなところだ」

 幸太郎の問い掛けに俺は頷いた。

「……にしても、大丈夫かね、あいつら」

 そんな義理はないと思いつつも、俺は麗奈たちのことを案じて、そんな言葉を漏らした。

 彼らはまだ気づいていなかったようだが、あいつらの考察には大きな問題がある。かくいう俺も今までスルーしていて、麗奈と話していてようやく気づいたことだが。

 この世界を作ったのは自称女神。スキルの仕様を決めているのも自称女神。―――それなら、魔王だの七天王だのを作ったのも、数多の転生者を殺したのも、あの自称女神ということにならないか?

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