第42話 遭遇しました

  ◇◆◇



 ……その頃、少し離れた場所にて。


「これで2体目……やはり、オークは数が少なくて数をこなすのが大変だな」

 両手剣を地面に突き刺して杖代わりにしながら、そうボヤくのはこのユニオンのリーダーである足立麗奈。今しがたオークを倒したばかりの彼女だが、大して疲労していない様子だ。

「もうちょいエンカしてくれると楽できんだけどねー。怠いっすわー」

 片手剣をぶらぶらさせながら漏らしたのは、騎士甲冑の少年。麗奈と同じパーティの福山敦也だ。

「……」

「るるか?」

 そんな二人には目も向けず、森の奥を睨むのは弓を握った革鎧の少女。同じくパーティメンバーの中村るるかだ。

「気配がする。人間と魔物の気配が一個ずつ」

「オークに対処し切れず逃げ出した冒険者か?」

「ううん、そういう感じじゃない」

 麗奈の問い掛けに、るるかは首を横に振る。その直後、彼女の目線の先から二人の人影が姿を現した。

「……ここにも冒険者がいた」

 その内の一人は、小柄な少女。下半身に届くくらい長い亜麻色の髪を揺らし、血に濡れた片手剣を握る、能面のように無機質な表情の女だ。身に纏う服は白いワンピースのようだが、血塗れになっているせいでツートンカラーと化している。

「ユニオンクエストとかいうのをやってるらしいからな。仕事がしやすくて助かる」

 もう一人は、線の細い少年。粗末な槍を握った彼は、少女と違って血を浴びてはいない。それでも、彼女と無関係という訳はないだろう。

「……仕事するのは私」

「そうだったな。んじゃあ早く仕事してくれ」

 物騒な恰好の少女と、平然と会話する少年。少女の陰に隠れるように後ろへと下がり、逆に少女は少年を守るように前へ出た。

「るるか、さっき言っていたのは彼らか?」

「うん。女の子の方が人間、男の子の方が魔物の気配がする」

「そうか……」

 るるかの話を聞いて、麗奈は両手剣を地面から引き抜いて構える。

「気配の話を抜きにしても、まともな連中じゃないのは明らかだ。応戦しつつ撤退する。他のパーティにも声を掛けて城塞都市まで戻るぞ」

「おっけー。確かにこれはちょーっとまずそうじゃんね」

 麗奈の隣に敦也が並び、同じく剣を構えた。軽薄な態度とは裏腹に冷や汗を流しており、少女たちに対する警戒は怠っていない。二人の後ろではるるかが弓を構えており、彼女も臨戦態勢だ。

「……じゃあ、仕事するね」

 そんな三人と少女が相対する。姿勢を低くした少女が、三人に向かって駆け出した。

「アイシクルバレット……!」

 麗奈が両手剣を振るうと、バスケットボール大の氷が形成され、少女に向かって飛んで行った。魔法騎士ルーンナイトの魔法スキルによって繰り出された氷の塊だ。まともに当たれば怪我では済まないのは明白だった。

「……えいっ」

 しかし、少女が剣を振るうと氷の塊が粉々に砕けて消えてしまう。剣圧によって生じた風が氷を叩き割ったのだ。

「なっ……!」

「ライトニングアロー」

 驚愕する麗奈の隙を埋めるように、るるかが弓を引き絞って放つ。矢が番えられていないにも関わらず、弓からは閃光のような矢が放たれた。軽装戦士レンジャーのスキルによって形作られた雷の矢が、光の速さで少女を射抜く。

「……効かない」

「そんな……!」

 だが、直撃した電流を物ともせずに少女は駆け抜ける。そのまま敦也に向かって剣を振るった。

「セイクリッドシールド……!」

 そのまま素直に攻撃を受ける敦也ではなかった。聖騎士パラディンのスキルを用いて目の前に障壁を作り、少女の剣を受け止めようとする。

「……無駄」

「がはっ……!」

 しかし、少女の剣は障壁を紙のように切り裂き、その後ろにいる敦也の腹を甲冑ごと切り開いた。血を噴き出しながら倒れる敦也。地面を自らの血で赤く染めていく彼は、速やかにその命を失っていった。

「敦也……!」

「動揺するのは後」

 仲間がやられて動じる麗奈を、るるかの声が正気に戻す。返り血を浴びて紅に染まる少女は、まだ戦意を鈍らせてはいないのだから。

「……もう遅い」

「っ……!」

 とはいえ、それが功を奏すことはなかった。少女の剣が麗奈の腕を斬り飛ばし、その腕が地に着く前に麗奈の胸を貫いた。彼女の腕が両手剣ごと大地に転がるのと、その命が失われるのと、果たしてどちらが早かったのか。

「麗奈……ごめん」

 二人の仲間を立て続けに失って、るるかは迷わず退却を選んだ。少女に背を向け、一目散に走り出す。

「……悪くない判断だけど、相手が悪いね」

 少女は麗奈の両手剣を拾う。自身の身長近くはあるそれを片手で持ち上げて、軽々と放り投げた。

「―――っ」

 巨大な金属塊が後頭部に直撃して、るるかの頭が中身を撒き散らしながら爆ぜた。悲鳴にならない吐息を漏らして崩れ落ちる彼女は、自分が死んだことに気づけただろうか。

「……終わり」

「お疲れ」

 麗奈たちを殺害して、少女は少年の元へと戻る。

「……これで終わり?」

「いや、もう少しいる。後一組のパーティがいるはずだ」

「……そう」

 少年の言葉に、少女は落胆するかのようにそう答えつつ、剣を振るって血を落とす。

「とはいえ、中央王国の有力な冒険者は全員ここにいるみたいだからな。これが終われば後はディーヴァに丸投げだ。頑張ろうぜ」

「……頑張るのは私」

「おっと、そうだったな」

 言い合いながら、二人は森を進んでいく。残る冒険者を狩るために。



  ◇◆◇



「ん?」

 オークを探して森を北上していると、急に視界が開けた。どうやら森が終わったらしい。

「オークが出なさ過ぎて森を出ちゃったね」

「面倒臭いわね……」

 ベルゼの言うように、オークが思った以上に出て来ないせいで、森を彷徨いすぎて森の外に出てしまったようだ。強さ以外の点でも厄介な魔物だな、オーク。

「というか、あれはなんだ? 跳ね橋か?」

 森の先にあるのはデカい川。そのど真ん中に鎮座するのは、これまたデカい鉄の塊。見上げるような高さの物体で、対岸にも同じようなものがある。この先が魔物の国だということだし、跳ね橋だろうか。

「そういえば、麗奈が言ってたな。魔物の国への橋は封鎖されてるって」

「この流れだと、橋がないと渡るのは無理だろうからね……」

 真由美の言うように、橋を使わずにこの川を渡るのは困難だろう。幅が広くて飛び越えるのは論外、流れもやたら速いから泳ぐのも現実的じゃない。あまりの激流に水が濁っているので深さは分からないが、足がつくとしても入るのは自殺行為だろう。

「ここにいても仕方ないし、戻ろうぜ」

「だな」

 幸太郎に言われて、俺たちは踵を返して森の中へと戻った。来た道を通って、オークの出現を狙う。

「……ルシフル」

「ん?」

 その途中、距離的に言えば最初の地点と跳ね橋の間くらいの所で、ベルゼが声を掛けてきた。またオークが出たのだろうか。

「血の匂いがする」

 だが、続く言葉を聞くに、もっと事態は深刻なようだった。

「血の匂い……ってことは、オークに誰かやられたのか? いや、それはないか」

 俺は推測を口にしてから、自分で否定した。確かにオークは手強いが、それでも俺たちが倒せる程度の相手だ。こんなところまで来るような連中が、俺たちより弱いとは思えない。

「となると、何かしらのイレギュラーが起こってることになるが」

「匂いの発生源が、こっちに向かってるみたい」

 厄介ごとの予感がした直後、ベルゼがそう言ったのと、物音がしたのはほぼ同時。

 これがオークだったら話は早い。他の連中がしくじったというだけだ。けれど、そうでない場合、面倒なことになる。

「真由美、幸太郎、念のため下がってろ。俺が合図したらさっきの跳ね橋のところまで戻れ」

「え?」

「それはどういう……」

「いいから、言う通りにしろ」

 俺は咄嗟に、真由美と幸太郎にそう指示した。そんな訳がないと思いたいが、万が一予想通りだったら二人が危ない。

「来るよ……!」

 ベルゼが小さく叫んだ直後、森の奥から誰かが出てきた。

 一人は、線の細い少年。槍を装備している。だが、ユニオンの冒険者に槍使いはいなかったはずだ。つまりこいつはユニオンの人間じゃない。

 もう一人は小柄な少女だ。やたらと長い、亜麻色と赤のツートンカラーになった髪―――違う。元は亜麻色だった髪に、血が付着してそう見えているんだ。服も白と赤の二色に見えるが、恐らくは返り血か何かを浴びたんだろう。手にした片手剣も血に染まっている。

「真由美、幸太郎、逃げろ……!」

 俺は刀を構えながら、二人に対して叫んだ。こんな血塗れになる連中がこの世界にいるとしたら、それはあいつらだけだ。

 ―――七天王。魔王の配下であり、この世界の人間を皆殺しにする者である。

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