第15話 絡まれました

  ◇



 ……一週間後。


「来るぞ……!」

 洞窟の中にて。俺はパーティの全員に警戒を促す。

「手筈はいつも通りにな」

「「「了解」」」

 パーティメンバーにはアスモ、真由美の他にもう一人。先日仮加入した幸太郎が正式加入しており、パーティの盾役として活躍している。メンバー増加に伴い、俺たちはより報酬が良いクエストを受けるようになっていた。

火炎舞踏フレイムワルツ

 能力を使うと、刀から火花が散って、薄暗い周囲を仄かに照らした。真由美がランタンを持っているし、そもそも多少の暗闇なら灯りがなくとも見えるのだが、そこはそれ。やはり明るいほうが見やすくて動きやすいな。

「来たか」

 すると、洞窟の奥から魔物の群れが出てきた。背丈が子供くらいの人型生物。緑色の肌、尖った耳、醜い顔、ボロ布と粗末な棍棒を身に着けた、特徴的な外見。こいつらはゴブリンという魔物らしい。大して強くはないが数だけは多い種族で、クエストも30体討伐とかなりの数を要求されている。

「おらっ……!」

 出てきたゴブリンは4体。俺のその中に突っ込んで、近い所にいる2体の首に刀を突き刺した。洞窟の中では刀を振り回しにくいので、基本的に刺突メインで戦っている。

「っ……!」

 首を貫かれてもゴブリンは消滅せずにしぶとく抵抗しており、その間にも残り2体が近づいてきた。しかし、そちらはアスモが銃撃で牽制したので動きが止まる。

「後ろから来るぞ……!」

「おう……!」

「う、うん……!」

 そして後方から別の気配。……このゴブリンという魔物は狡猾というか性格が悪くて、冒険者相手に前から襲いつつ、別動隊に背後から奇襲させるという習性がある。とはいえ、こいつらはそこまで頭が良いという訳でもない。作戦はいつもワンパターンであり、事前に知っていれば何とでもなる。

「ウォールシールド……!」

「ホーリーランス……!」

 幸太郎が壁を張って奇襲を防ぎ、真由美が魔法で掃討する。そんな二人を尻目に、俺も目の前のゴブリンを倒していった。アスモとの連携なら、これくらいは何とかなる。

「……ふぅ」

 戦闘が終わり、一息吐く。戦闘自体は無事に終わった。それはいい。けれど、思うところがない訳ではない。……俺たち兄妹が、真由美や幸太郎とパーティを組み続ける意味はあるのだろうか? いや、より正確に言うなら、彼らは俺たちとパーティを組む必要があるのだろうか?



「はい、クエストの完了を確認しました。こちら、報酬となります」

 クエストを終えて、俺たちはギルドで報酬を受け取っていた。

「今日も疲れたな……」

「ほんとだね……」

 幸太郎と真由美は疲労困憊という風にそう漏らしているが、台詞の割に余裕がありそうだった。肉体的というよりは精神的な疲労が溜まっているのだろう。

「ちょっとそこで休んでいくか」

「しょうがないわね……」

 そんな彼らを見て、俺たちはギルドの談話スペースで休憩することにした。飲み物も出ない、本当にただ座るだけのスペースだが、休むだけなら問題ないだろう。

「ゴブリンって数が多いから大変だよな……」

「それだよ……ルシフル君たち、よく体力もつよね」

「それくらいしか取り柄がないからな」

「そうよ。体力馬鹿は遠慮なく扱き使ってやればいいの」

「お前はもうちょい遠慮しろよ」

 雑談をしながら無為に時間を過ごす。前世にはなかった体験だった。学校帰りに友達と駄弁る、というのはこういう感じなんだろうか?

「……ん?」

 そんな風に過ごしていると、ギルドの入口が騒がしくなった。

「何だ、あいつら?」

「ああ……あいつらか」

 ギルドに入ってきたのは、俺でも知っているパーティだった。確か、この町で一番強いという触れ込みのパーティだ。

「何でも、毎日黒竜を討伐してるって話らしいぜ」

「黒竜って?」

「1体倒すだけで5万ゴールド貰える超ヤバイ魔物」

 高額報酬が出る程に強力な魔物が、この町の近くで出没するらしい。そんなんで大丈夫なのかこの町は? と思ったりもしたが、不思議と町は襲わないらしい。だったら放置しても良さそうなんだが……異世界の事情はよく分からん。

「ふーん……って、あいつらこっち来るぞ」

「ん?」

 そんな話をしていたら、そのお強いパーティの面々がこちらの方にやって来た。こいつらも休憩か。それならまだマシなんだが……。

「やあやあ、誰かと思えば雑魚兄妹じゃないか。昨日振りだね」

「めんどくせぇ……」

 パーティのリーダーである少年が、開口一番に俺たちを煽ってきた。俺は思わず本音をぶちまけてしまう。

「おやおや、雑魚の癖に随分と生意気な口を利くじゃないか。ええ?」

「んなこと言いにわざわざ来たのか?」

 下卑た笑みを浮かべるリーダーに、俺は辟易としながら問い掛けた。こいつは昨日も俺たちに絡んできたが、今日もか……。

「用事があるのは君じゃなくて妹の方だよ。ねぇ、アスモちゃん」

「……」

 するとリーダーはアスモの方に顔を近づけるが、そのアスモはこれでもかってくらい顔を背けている。こいつはこのリーダーが大嫌いなのである。いやまあ、彼女は元々家族以外の人間には心を開かないんだが、それを考慮しても強い拒絶の意を示していた。

「釣れないなぁ、アスモちゃん。君は弱いんだから、強い僕に取り入った方が身のためだよ?」

「「うっわ……」」

 アスモの肩に手を置いて抱き寄せようとするリーダーに、真由美と幸太郎のドン引きするような声が重なる。……良かった。こいつの言動がやべぇと思ってたのは俺だけじゃなかったんだな。

「離して……!」

「お前、いい加減にしろよ」

 リーダーを振り払おうとするアスモだが、ビクともしないので、俺がリーダーの腕を掴んだ。……アスモは見た目の割に筋力がある。そんな彼女でも、このリーダーの手は振り払えない。これが転生者の力なのか。

「止めておきなよ、雑魚」

「ぐっ……」

 俺が腕を掴んでも、リーダーはビクともしなかった。別に筋肉隆々という訳でもないのに、全然動かせない。やはり、転生ボーナスとやらが大きいのか。

「お、おい、いい加減にしろよ……!」

「そ、そうだよ……! 離してよ……!」

 リーダーの暴挙に、さっきまでドン引きするだけだった真由美と幸太郎が声を上げた。

「雑魚は黙ってなよ」

「ざ、雑魚って……」

「実際雑魚なんだろ? じゃなければ、こんな雑魚共とパーティを組んだりする訳がないじゃないか」

 しかし、リーダーは聞く耳を持たないどころか、彼らのことも罵倒している。マジで性格が悪い。こいつの仲間も後ろでニタニタ笑ってるし、気持ち悪い。

「あの~……ギルドで揉め事は遠慮して頂きたいんですが~……」

 すると、ギルドの受付嬢が仲裁に入ってきた。助かった……俺たちだけだと追い払えるか怪しかったからな。

「ちっ……。お前ら、行くぞ」

 受付嬢の仲裁を受けて、リーダーはパーティメンバーを連れてギルドを出て行く。さすがにギルド相手に喧嘩売る程の馬鹿ではないようだな。

「悪い、助かった」

「いえいえ~。ギルドで乱闘騒ぎになると面倒なので~」

 俺が受付嬢に礼を言うと、彼女はそう言って去って行った。

「何なんだよ、あいつら……」

「ああ、お前らはあの時いなかったんだっけか。……昨日、あいつらにアスモがナンパされたんだよ。んで、アスモがそれを冷たくあしらって、それを根に持ってたんだろ」

 あれは昨日のことだ。夕食を取った後、俺とアスモは二人で武器屋に行っていた。その時に出くわしたのがあのパーティの連中だった。あのパーティリーダーは以前からアスモを狙っていたらしく、俺の目の前でアスモを口説いたのだ。しかし、アスモはガン無視。さっさと用事を済ませて宿に帰ったのだが……どうやら、それが気に食わなかったらしい。

「それにしたって……あれはないよ」

「ほんとよ……マジで気持ち悪い」

 あのリーダーの所業に、女性陣は顔を顰めていた。アスモはよく銃を抜かなかったと思う。……まあ、受付嬢の仲裁が遅れていたらどうなっていたか分からんが。

「アスモちゃん、大丈夫?」

「まあ、何とか……なんか食欲失せたし、先に宿に戻るわ」

「あ、じゃあ私も行くよ」

「どうせ同じ宿に帰るんだ。一緒に戻ろうぜ」

「おう」

 普段ならこの後夕食なのだが、そんな雰囲気でもなくなったので、俺たちは宿に引き上げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る