第14話 ピンチを乗り切りました
◇◆◇
「いってー……」
俺―――山崎幸太郎は、痛む背中を擦りながら起き上がった。……通学途中、建設現場の事故に巻き込まれた俺は、この世界に転生した。よく分からないまま冒険者となった俺は、ギルドの紹介でとあるパーティに入ってクエストを受けることになった。けれど、俺の異世界転生は前途多難だった。ラノベやアニメみたいに無双できる訳でもなく、ただ流されて、突っ立ってるだけの木偶の坊になっていた。今だって、まともに戦うことが出来ずに、地面に転がっている。
「ったく……やってらんないわね」
俺の隣には、銃を握った少女がいた。名前は確か、アスモ。白髪と赤目というかなり派手な外見をしている女の子だ。この見た目だけなら彼女の兄であるルシフルという青年も同様だが、アスモは黒いゴスロリ風のドレスを身に着けているので奇抜さが跳ね上がっていた。
「何なんだよ……何なんだよ一体……!」
そんな彼女に、俺は注意を向けている余裕がなかった。……俺だって一応は冒険者だ。装備も貰ったし、戦うことを前提にこのパーティに入った。けれど、俺は全然戦えそうになかった。出てきた魔物はあまりにも恐ろしいし、今も追い回されて腰が抜けるかと思った。この前死んだばかりなのにまた死にそうな目に遭うだなんて、理不尽にも程がある。
「泣き言は後にしなさい。死ぬわよ」
動揺している俺に対して、アスモは銃のマガジンを交換しながらそう言ってきた。俺には目も向けていなかったが、俺に掛けた言葉なのは確かだろう。
「まあ、怖いならそこで震えてればいいわ。このまま私たちが全滅したら、あんたも死ぬけど」
マガジンの交換を終えたアスモはそう言い残すと、茂みを飛び出して獣道へと戻る。またあの熊の魔物と戦うのだろう。
「……はは、俺って情けねぇな」
アスモが去って、俺は自嘲気味に呟いた。……俺と大して歳も違わない女の子が、命懸けで戦ってる。あの子だけじゃない。ルシフルって青年も、真由美っていう少女も、みんな戦ってるのだろう。なんて苛烈な世界なんだ。ラノベやアニメとは全然違う。俺には、あんな風に戦うなんて―――
「……それでいいのか、俺」
弱気な考えが頭を過って、俺は己を問い質す言葉を漏らした。……俺はいつもこうだ。怖いがあると、いつも理由をつけて逃げ出していた。友達と一緒に不良に絡まれた時は、その友達を見捨てて真っ先に逃げ出した。高校では野球部の練習を耐えて地区大会でベンチ入りしたのに、いざ出番が来た時は本番のプレッシャーに耐えられず、仮病を使って出場しなかった。そうやって、俺は常に困難から逃げてきた。それを、死んでまで続けるのか?
「……くそっ」
今も、茂みの向こうからは戦闘の音が聞こえる。確か、ルシフルは言っていたはずだ。熊が3体以上出てきたら全力で逃げると。でも、今戦っている熊は4体。そんなの、絶対に勝てる訳がない。……俺も、加勢しないと。あいつらが、死んでしまう。俺のせいで。
「くそぉ……!」
俺の適性職業は
「うおぉぉぉーーー!」
声を出して、弱気な俺自身を鼓舞する。茂みの外までもう三歩もない。このまま飛び出せ。弱い俺は、前世に置いて来るんだ。もう、弱いままの自分でいたくない……!
「おらぁーーー!」
そうして俺は茂みを飛び出し、戦いに身を投じるのだった。
◇◆◇
「ったく……!」
俺は熊の爪を躱して、別の熊の鼻先を斬りつける。手応えは小さいものの、傷が入って血が噴き出す。……能力を使わないほうがダメージが入る。ネズミには能力を使ったほうが大ダメージだったが、熊相手は違うのか?
「おらっ……!」
そんな考察をしている暇もなく、俺は熊に囲まれた。1体は真由美が倒してくれたが、まだ3体も残っている。俺が全部が引き受けないと、真由美が狙われてしまう。とはいえ、一撃でも喰らえば即死確定の熊を3体も相手にしないといけないのは精神的にきつい。
「ホーリーランス……!」
俺の背後を狙った熊に真由美が魔法を放つ。その隙に一旦後退、体勢を立て直す。
「めんどくせぇ……!」
ぼやきながら、一番近い熊の目に刀を突き刺す。刺さり方は浅いが、目的は怯ませることなのでむしろ好都合だ。
「ルシフル……!」
その直後、アスモの声が聞こえた。俺が咄嗟に右へ飛ぶと、先程までいた場所を銃弾が通っていく。熊の反対側の目に命中し、熊がのた打ち回る。これで手負いの熊が1体、両目を潰された熊が1体、ほぼ無傷の熊が1体。
「ホーリーランスッ……!」
そして手負いの熊に真由美の魔法が刺さり、そのまま消滅させる。残り2体。だが―――
「も、もう限界……」
真由美の声と共に、彼女が倒れる音がした。魔力が切れたのだろう。真由美がポーションを飲んで戦線復帰する時間を稼がないといけないが、かなり厳しい。
「アスモ……!」
「分かってる……!」
とにかく足止めだ。両目を潰したほうは距離を取ればいいが、もう1体は健在である。
「
俺と熊の間にアスモの幻影が生まれ、驚いた熊が幻影に腕を振り下ろす。その隙を狙って目を斬りつけようとするが、僅かに逸れて額を浅く掠めるに留まった。
「うおっ……!」
続く熊の爪は、刀をクロスさせて防ぐ。が、あまりにも重い攻撃に体ごと吹き飛ばされた。咄嗟に受け身を取ったが、アスモたちの所まで後退させられた。まずい……!
「何やってんのよ……!」
アスモは文句を言いつつも銃で熊の両目を狙うが、どちらもズレて頭を掠めるに終わった。疲労のせいか、照準が合わなくなってきてるな。
「くそっ……!」
あの熊はほぼ無傷。そして両目を潰したはずの熊も持ち直したようで、こちらに顔を向けている。攻撃の要である真由美はまだポーションを飲んでいて動けない。俺とアスモで熊を2体も相手するのは不可能。万事休すか。
「ぐっ……!」
痛みを堪えて立ち上がり、痺れる腕に鞭打って刀を構える。だが、熊は2体ともこちらに突進してきた。どう考えても、受け止めるなんて無理だった。
「おらぁーーー!」
すると、俺たちの前に誰かが現れた。幸太郎だ。
「ウォールシールドォ……!」
幸太郎が叫ぶと、彼の前に半透明の壁が現れた。壁に向かって熊が突進してくるが、そのまま激突して跳ね返される。これは、こいつがやったんだろうか?
「はぁ……はぁ……」
息を切らせる幸太郎。彼は腰の短剣を抜くと、壁の向こうにいる熊たちへと構えた。これは、戦うという意思表示か。
「ご、ごめん……」
すると、後ろで真由美の声がする。立ち上がる音がするし、無事回復したのだろう。
「魔法を、撃ってくれ……この壁は、こっちからの攻撃は邪魔しない」
「う、うん……ホーリーランス!」
幸太郎の言葉に、真由美が魔法を放つ。片方の熊の頭に突き刺さって、消滅させた。
「……俺がこの壁を維持する。だから、お前らは安全な場所から攻撃してくれ」
「う、うん……」
幸太郎が壁を張り、真由美が魔法で攻撃する。安全に敵を倒す体制がここに築かれた。
「……」
勿論、安全に勝てるのならそれに越したことはない。そもそも、幸太郎が戦う気になっていなければ全滅していただろう。そもそも、今はこんなことを考えている場合じゃない。だから、こんなことを思うのは筋違いなはずだ。
「……はぁ」
けれど、考えずにはいられなかった。……真由美と幸太郎、この二人がまともに戦えるようになったら、俺たち兄妹は必要ないんじゃないだろうか? こいつらとパーティを組む意味、あるのか?
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