第16話 配達依頼を受けました

「なぁ、幸太郎」

「ん?」

 夜。宿の部屋で、俺は幸太郎に話し掛けていた。……こいつがパーティに加入してから、俺は彼と相部屋になっていた。宿代は二人部屋の方が僅かに安いので、当然の流れだった。

「俺とアスモ、お前らとパーティ分けた方が良くないか?」

「何だよ、突然……?」

 俺の言葉に、幸太郎は戸惑いの声を上げた。やはりちょっと唐突だったか。

「だってなぁ……お前と真由美なら、二人だけでやっていけるだろ」

 けれど、間違ったことは言っていないつもりだ。真由美の攻撃力と幸太郎の防御力なら、魔物の討伐くらいは余裕だろう。クエストの報酬はパーティ単位で支払われるので、人数が少ない程取り分は多くなる。無駄な人員は削減した方が良い。

「いやいやいや、お前が抜けたら索敵はどうするんだよ?」

「熊討伐なら俺がいなくても大丈夫だろ。足音デカいし、振動で気配が分かりやすい」

 確かに索敵は俺の役目だが、ブラックベアなら俺がいなくても索敵は容易のはずだ。あのクエストは二人でやれば報酬もかなりのものになるし、二人でやった方が効率的だろう。

「んなこと言われても……」

 そうやって説き伏せようとしたのだが、幸太郎の反応は芳しくない。

「っていうか、マジで何で急にそんなこと言い出したんだよ? もしかして、さっきの連中が言ったことを真に受けてるのか?」

「真に受けるも何も、純然たる事実だろ」

 幸太郎が言い出したのは、今日絡んできたパーティリーダーのこと。あいつは俺たち兄妹を執拗に雑魚と呼び続けていた。とはいえ、俺たちが弱いのは純然たる事実だ。……俺もアスモも、このパーティだと大した戦力にならない。索敵と足止め以外には役に立たないが、それらも別に必須ではない。真由美と幸太郎が独立出来るようなら、足手纏いの俺たちは離脱するべきだ。彼らは、俺にとって初めての、家族以外で親しくなった人間だ。下手に負担を掛けたくない。

「ルシフル、お前……」

「まあ、今すぐじゃなくてもいいけどさ。ちょっとは考えておいてくれよ」

「……」

 俺は言うだけ言ってベッドに入った。明日も仕事だ。



「配達依頼?」

 翌朝。ギルドに顔を出すと、いつもの受付嬢に頼みごとをされた。

「はい~。いわゆるお使いクエストですね~」

「交易都市サンライに、小包の配達、か。確かにお使いだな」

 ここから徒歩半日の距離にある都市への配達。報酬は8000ゴールドと、そこそこの額だ。

「けれど、何で俺たちに? 郵便とかないのか?」

「ギルド間での荷物運搬は冒険者に依頼するという規則になってまして……ですが、この手のお使いクエストはあまり人気がないんですよね~……」

 俺の疑問に、受付嬢はそう答えた。……昨日のパーティは黒竜討伐で荒稼ぎしているようだし、他のパーティも似たようなものらしい。丸一日使ってこの金額だと、魔物討伐のほうが効率的ということか。

「それに、ルシフルさんの場合、昨日のこともありますし……少し、町を離れるのも悪くないと思いますよ~」

「そうだな……」

 受付嬢に言われて、思い出すのは例のパーティリーダー。あいつはアスモにご執心のようだし、町にいたら今日もちょっかいを掛けてくるかもしれない。それなら、少しの間だけでも町から離れていた方がいいか。



「という訳で、俺とアスモは町の外に行ってくる」

 パーティメンバーが揃ったところで、俺はそう宣言した。

「ちょっと、勝手に決めないでくれる?」

「いや、お前がついて来るのは確定だから。昨日の連中から隠れるのも目的の一つなんだぞ?」

「それは……」

 案の定アスモは怒っているが、こいつを守るためでもあるので苦情は受け付けない。

「じゃあ、私たちはどうすれば……?」

「真由美と幸太郎は二人でクエストやればいいだろ。クエストの受注はパーティの誰がやってもいいらしいし、パーティの登録もそのままにしておくから問題ない」

「ルシフル……」

 残りの二人には適当なクエストをやるように指示しておく。……俺とアスモはいずれこのパーティを抜けることになるだろう。そのことを考えたら、ここで二人に予行演習をして貰ったほうが良い。ついでに各々の分け前も増えて一石二鳥だ。

「つーわけで、行ってくるわ。夜には戻ると思う」

 これ以上話していても意味がないので、俺はアスモを連れて町の外へと向かった。



  ◇◆◇



 ……その頃、別の場所では。


「……」

 暗い部屋の中。七つの棺が並ぶ空間で、そのうちの一つから誰かが出てきた。特徴らしい特徴のない、黒髪黒目の男性。年齢は二十代半ばだろうか。棺の蓋を開けて、中から這い出てきた。

「おはよう」

「お前は……」

 彼の傍らに立っていたのは、一人の少女。金髪ツインテールが特徴的な、十代前半くらいの小柄な女の子だ。

「忘れちゃった? って言っても、わたしも記憶ないんだけど」

「……俺もないな、記憶」

 少女の言葉に答えて、男性は立ち上がった。

「じゃあ、わたしたちの役目は理解してる?」

「そこは大丈夫だ」

 言いながら、二人は部屋を出る。暗い廊下を歩き、広い部屋へと出た。

「あら、おはよう。あなたたちで最後よ」

 部屋の中心には円卓が置かれ、座席の一つには女性が座っていた。癖のある長い黒髪に、琥珀色の瞳が目立つ、二十代後半くらいの美女。

「適当な席に座って」

「……あんただけか?」

「他の子たちは出払ってるのよ」

 言われて、女性の反対側に並んで座る二人。彼らが席に着くと、女性は話し始める。

「それでだけど、あなたたちは役目を理解しているのかしら?」

「分かってるっての。……うちのボス、魔王。その配下、だろ?」

「その通り」

 男の答えに、女性は満足そうに頷いた。

「あなたたちは名前が消えてるし、新しい名前が必要ね……ウルフ・テイルズと、ダーク・ブレイド、っていうのはどうかしら? 分かりやすいでしょ?」

「もうちょっとマシな名前はないのか?」

 女性が提案した名前に、男性が苦言を呈する。気に入らなかったらしい。

「え~? いいじゃん。わたしは好きだよ」

「マジかよ……」

「なら決まりね」

 しかし、少女が気に入ったため、これで決定となった。

「じゃあ、あんたのことは何て呼べばいいんだ?」

「リーフ・ウィッチって名乗ることにしたわ」

「リーフ、ね……まあいいか。了解」

 男性―――ウルフは何か引っ掛かりを覚えつつも、リーフと名乗った女性に頷いた。

「それで? 具体的に、俺たちは何をすればいいんだ?」

「とりあえず、南の国にいる人間たちを殲滅すればいいわ」

「殲滅かぁ……」

 リーフの指示を聞いて、ダークは不満げな様子で声を上げた。ウルフの方も苦い顔をしている。

「文句言わないの。それがあなたたちの役目でしょ?」

「まあ、それもそうだな……」

 リーフに窘められて、ウルフは頭を掻きながら立ち上がる。

「とりあえず、まずは交易都市サンライを滅ぼして頂戴。後は国内の町を潰していって、最後に王都。最初と最後以外の順番は任せるわ」

「へいへい……んじゃまあ、魔王の配下として、仕事を全うするかね。行くぞ、ダーク」

「はーい」

 指示を受けたウルフとダークは、共に部屋から出て行った。

「これで、七天王全員が揃った。うちの魔王様の計画が本格始動した訳だけど……ここからどうなるのかしらね?」

 一人残されたリーフは、顔を上げて、そんなことを呟くのだった。

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