親友のお姉さん親子

春風秋雄

俺は味噌汁の香りで目を覚ました

味噌汁の香りが俺の脳をくすぐり、目を覚ました。大学進学で上京し、一人暮らしを始めてから、最初のうちこそ朝食にトーストを食べていたが、いつの間にか朝食を食べなくなった。たまに出張先で泊まったビジネスホテルで、朝食バイキングを食べることがあるが、その時も白米ではなくパンを選ぶ。だから朝食に味噌汁が並ぶのは実家にいた10数年前以来だ。本当に朱音(あかね)さんが俺の家にいるのだと、現実に引き戻された。俺はパジャマから部屋着に着替え、顔を洗ってからリビングへ行く。朱音さんのお子さんの愛(あい)ちゃんはすでにテーブルについていた。

「おはようございます」

俺が声をかけると朱音さんが振り返り俺を見た。

「あ、高瀬さん、おはようございます。朝食は和食にしましたけど、パンの方が良かったですか?」

「いや、和食で大丈夫です。愛ちゃん、おはよう」

俺が愛ちゃんに挨拶をすると、愛ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしながら「おはよう」と応えた。朱音さんは慣れた手つきでテキパキと朝食の準備を進める。そんな姿を見ていると、こういう生活も悪くないなと思う。しかし、この二人は、いつまでもここにいるわけではない。


俺の名前は高瀬健太。32歳の独身だ。大学時代からの親友である井上繁晴が「うちの姉ちゃんを匿ってくれないか」と言ってきたのは昨夜の遅い時間だった。繁晴のお姉さんは俺たちより2歳年上の34歳。学生時代に繁晴の家に遊びに行った際、一度だけ会ったことがあった。結婚して苗字が替わり、今は石田朱音さんとなっている。

繁晴が「匿ってくれ」と言ったのは、旦那さんからという意味だった。結婚当初は優しい旦那さんだったそうだが、4年前に朱音さんの反対を押しきって脱サラし、商売を始めたがうまくいかず、それから夫婦関係がギクシャクしはじめたそうだ。生活費が足りないと愚痴をこぼしたところ、カンカンになって怒り、怒鳴りちらしたということだ。その日を境に、朱音さんに対する旦那さんの態度は徐々にエスカレートし、些細な言い合いでも暴力をふるうようになり、お酒に酔ったときなどは、何か気に食わないことがあれば朱音さんに暴力をふるうようになったということだ。そんな男でも、子供の愛ちゃんには優しい父親で、愛ちゃんも父親が大好きだったものだから、愛ちゃんのためにもと我慢していたのだが、先々月、例によって旦那さんに暴力を振るわれた際に、頭を強く打って病院に担ぎ込まれた。知らせを聞いて病院に駆け付けた朱音さんのご両親が、事情を聞いて激怒し、離婚するように説得すると、すぐに弁護士に依頼し離婚手続きに入ったということだ。ところが、実家に身を寄せていた朱音さんのところへ旦那さんが押しかけ、怒鳴り散らす騒ぎがあった。それ以来、何度か朱音さんの目を盗んで愛ちゃんを連れ去ろうとすることが重なり、身を隠すために実家を出てアパートを借りていたが、そこも突き止められてしまったらしい。それで隣県に住んでいる俺のところへ避難しようということになったというわけだ。

俺は3年前に千葉県に3LDKのマンションを買った。都内にある会社に通勤するには1時間以上かかるが、静かで住みやすい場所だ。朱音さんの旦那さんもまさかここまでは追いかけてくることはないというのが繁晴の考えだった。繁晴に頭を下げられ、5歳の子供を抱えている朱音さんの姿を見ては、断るわけにはいかなかった。


朝食を食べ終え、スーツに着替えて出勤しようと部屋を出たら、朱音さんが声をかけてきた。

「これからお仕事ですか?」

「はい」

「部屋の掃除とかもさせてもらおうと思っていますけど、高瀬さんのお部屋には入らない方がいいですか?」

「別に見られて困るものはないですから、入ってもらっても良いですが、掃除とか気にしなくていいですよ」

「ご迷惑をおかけしますので、それくらいはさせて下さい。洗濯物も洗濯機に入れておいて頂ければ私がしますので。下着でも何でも大丈夫ですから。繁晴ので、そういうのは慣れていますから」

「ありがとうございます。でもあまり気を使わないでくださいね。あと、大通りを右に曲がってすぐにスーパーがありますので、そこで買い物とかはして頂ければいいです。当面の生活費は・・・」

と言って財布を出そうとすると、朱音さんが手で制した。

「お金はあります。繁晴が高瀬さんに負担かけないようにと、お金を渡してくれました」

そういうところは繁晴らしいなと思った。玄関で靴を履いていると、朱音さんと愛ちゃんが見送ってくれた。

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

愛ちゃんも可愛く手を振っている。いつもお父さんにそうやって手を振っていたのだろうか。


朱音さんの離婚交渉は長引きそうだった。離婚の場合、家事事件手続法により、いきなり裁判に持ち込むことは基本的にできず、まずは調停で話し合いをし、調停で話し合いが決裂すると裁判に移行するという流れになる。ところが調停の場合、相手側が調停の期日に出頭して来ないケースがある。あくまでも話し合いで解決しようというのが調停なので、相手が出頭しなければ話し合いができない。そこで日程を変更して、裁判所から相手方に対して呼び出しを2回、3回と行う。それでも相手方が出頭しなければ調停不成立となり離婚訴訟という手続きになる。訴訟になれば相手方が出廷しなければ、こちらの言い分が通り、審判は結審するが、それまでに、相当な期間を要することになる。それまでうちに同居ということになるわけだが、1年くらいは一緒に暮らすことになるかもしれない。


仕事から帰ると、部屋は綺麗に片付いていた。食卓には料理が並んでいる。

「愛ちゃんは先に食べたのかな?」

愛ちゃんは部屋に籠っているのか、見当たらなかった。

「ごめんなさい。私も愛と一緒に先に済ませてしまいました」

「いいですよ。遠慮することないです」

朱音さんがごはんをよそってくれる。外食ばかりしていたので、手料理に飢えていたのもあるが、料理はどれも美味しかった。

食べ終わり、お茶を飲んでいると愛ちゃんがやってきた。

「ママ、パパのところにはいつ帰るの?」

そうか、愛ちゃんはパパのことが大好きだと言っていた。この年では事情を理解することは難しいだろうし、朱音さんとしては辛いところだな。

「パパはお仕事の関係で、しばらくは会えないのよ」

「しばらくって、どれくらい?」

「それはママにもわからないの。愛ちゃんにはママがいるから寂しくないでしょ?」

愛ちゃんが寂しそうな顔をした。思わず俺は声をかけた。

「愛ちゃん、パパとは普段何して遊んでいたの?」

「オセロとかね、ブロック遊び」

「愛ちゃんオセロできるの?」

「できるよ」

俺は思わず朱音さんの顔を見た。

「オセロは4歳からできると言われて、やらせたら、すぐにルールを覚えて夢中になってやっているんです」

「そうか、うちにもあるから、やろうか?」

「本当?」

俺は押し入れからオセロを出してきた。途端に愛ちゃんが目を輝かせた。

俺自身オセロをやるのは久しぶりだ。愛ちゃんは上手に進めていく。やっている顔は楽しそうだった。

3回やったところで朱音さんが「愛、お風呂に入るよ」と言って、愛ちゃんは聞き分けよくゲームをやめてお風呂へ行った。


愛ちゃんを寝かしつけた朱音さんがリビングに戻ってきた。朱音さんのパジャマ姿に少しドキッとする。

「さっきはありがとうございました」

「愛ちゃんはパパのことが好きなんですね」

「あの人は愛には優しかったから」

「これからはパパと離れて暮らすんだということを、納得してくれるといいのですけどね」

俺がそう言うと、朱音さんは暗い顔をした。


朱音さん親子との生活は、思っていたより快適だった。部屋の片づけや洗濯など、独り暮らしでは煩わしかった事を朱音さんがやってくれるので助かる。何よりも食事が美味しい。今までは結婚なんて面倒くさい、独りでいる方が気が楽だと思ってきたが、家庭を持つのも悪くないなと思ってきた。そして、愛ちゃんは俺に懐いてきて、とても可愛い。遊びに熱中するとなかなか離してくれないこともあるが、基本的に聞き分けが良く、変にぐずったりすることもない。朱音さんがちゃんと躾けているのがよくわかる。

半年ほどたった頃、朱音さんの離婚調停は不成立となり、訴訟に移った。離婚に関しては旦那さんのDVは民法で定める「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するので、すんなりと認められると思われるが、問題は愛ちゃんの親権だった。通常は母親が親権を得るケースが多いが、朱音さんは現在働いていない。収入がないのに愛ちゃんを育てられるのかという問題がある。そのあたりのことを弁護士と色々相談しているようだった。

「どうですか?親権はとれそうですか?」

気になっていた俺は、愛ちゃんを寝かしつけた朱音さんに聞いた。

「両親がいる実家に住んで、私が働いている間は愛の面倒は母が見るということで、何とかなるだろうと弁護士の先生は言ってくれているのですが」

「そうですか。うまくいくといいですね」

「問題は、私がまだ働いていないということなんです。いくら実家住みだとはいえ、養育費の相場からいえば、私の収入がないことには生活はできませんから。弁護士の先生もそれを心配されていました」

確かにそうだろうな。今の状態であれば実家のご両親の収入をあてにして生活するということになる。俺は少し考えてから言ってみた。

「朱音さん、私の会社で働いてみませんか?」

「高瀬さんの会社でですか?ごめんなさい。私何も知らないのですが、高瀬さんって、社長さんなのですか?」

「あれ?繁晴から何も聞いていませんでしたか?少人数の会社ですが、WEB広告制作の会社を経営しているんです。今は新しく事業展開している企業向けのPR動画の作成に力を入れているのですが、動画制作の人員が足りなくて困っていたんです。この仕事であればパソコンさえあれば自宅でもできますので、愛ちゃんの面倒を見ながらでも仕事はできます」

「動画の制作なんて、私にできるのでしょうか?」

「一から教えますので、素人でも出来るようになりますから、大丈夫です」

「本当ですか?じゃあ、是非お願いします」

朱音さんはそう言って深々と頭を下げた。


翌日俺は、入社手続きに必要な書類を持って帰って、朱音さんに署名捺印してもらった。今月はまだ5日しか経っていなかったので、入社日は遡って1日からということにした。雇用契約書を交わし、勤務地は本社もしくは在宅ワークとした。給与辞令を渡し、あらかじめ作成しておいた在職証明書も渡した。

「これだけ資料があれば、裁判でも大丈夫でしょう」

俺がそう言うと、朱音さんは給与辞令を見ながら尋ねた。

「この額面は、裁判のための仮の額面なのですよね?親権をとるために、これだけ収入がありますよと見せるためのものですよね?」

「いや、実際にそれだけの給与をお支払いしますよ」

「こんなにもらっていいのですか?」

「正当な報酬だと思っています。もちろん、それだけの仕事はしてもらいますけどね」

朱音さんは給与辞令を胸に抱きしめジッと俺を見つめていた。


翌日からパソコンを1台用意し、朱音さんに仕事を教えていく。朱音さんは物覚えが早く、パソコンの操作も慣れているようで、すんなりと仕事をこなしていけそうだった。作業はすべてクラウド上で行うので、会社にいながら朱音さんの進捗状況は確認できる。1週間もすると朱音さんは他の社員と遜色ないスピードで仕事をこなすようになった。月末になり、俺は初めての給与の振り込み手配をした。

「今日、お給料振り込まれていました。ありがとうございます」

家に帰るなり朱音さんが俺にかけより礼を言った。

「働いた報酬ですから、お礼なんか必要ありませんよ」

俺はそう言って着替えるために部屋に入ったが、朱音さんの嬉しそうな顔を見て、俺までうれしくなってきた。


朱音さんは仕事も順調で、裁判の方もそろそろ和解で決着しそうだということだった。朱音さん親子が俺の家に来て10か月が過ぎていた。

「すべて高瀬さんのおかげです。ありがとうございます」

「離婚が成立したら、実家へ戻られるのですよね?」

俺がそう聞くと、朱音さんは一瞬言葉につまった。そして息をはくように、ゆっくりと答えた。

「そうですね。実家に帰らなければいけませんね」

そういう朱音さんの顔は、とても寂しそうだった。俺は何か声をかけたかったが、言葉が出てこない。愛ちゃんは今年6歳になった。来年は小学生だ。どこの学校へ通うかは、ある程度早い段階で決めておく必要がある。常識的に考えれば、いくら在宅ワークが可能な仕事とはいえ、実家のご両親の助けを借りて生活する方が良いに決まっている。


その日の夜、もう寝ようとベッドに入っていると部屋のドアがノックされた。朱音さんであることは明らかだ。愛ちゃんに何かあったのかと思い、俺はすぐに起き上がりドアを開けた。パジャマ姿の朱音さんが深刻そうな顔をして立っていた。

「どうしました?愛ちゃんに何かありましたか?」

「いえ、ちょっとお話させて頂いていいでしょうか?」

「じゃあ、リビングへ行きましょうか?」

「高瀬さんのお部屋でいいです」

リビングだと愛ちゃんが起きてくる可能性があるからかなと思い、俺は朱音さんを部屋に入れた。デスクの椅子に朱音さんを座らせ、俺はベッドに腰かけた。

「あのー、離婚が成立したあとも、ここにいさせてもらうわけにはいかないでしょうか?」

「実家では何か不都合があるのですか?さすがに離婚した後まで、旦那さんが押しかけてくることはないと思いますよ?」

「そうじゃなくて、私がここにいたいのです」

「朱音さんが?」

「私、ここで暮らした10か月が、とても楽しかったのです。愛も高瀬さんに懐いていますし・・・」

「それは私に好意をもってくれたということですか?」

「まだ離婚が成立していない段階で、こんなことを言うのはダメなのかもしれませんが、バツイチの子持ちで、しかも高瀬さんより2つも年上ですけど、出来たら高瀬さんと、ずっと一緒に暮らして行けたらなと思っています」

「本当に私でいいのですか?」

「はい」

「私も、朱音さんと愛ちゃんがこの家を出ていくのは、とても辛いなと思っていました」

俺がそう言ったとたんに、朱音さんは俺に抱きついてきた。俺は朱音さんを強く抱きしめ、そのままベッドに横たわせた。


「朱音さんとこんな関係になったと言ったら、繁晴が驚くだろうな」

「繁晴は高瀬さんとこうなることを望んでいました」

「そうなのですか?」

「高瀬さんは良い人だから、離婚が成立したらアプローチしてみたらいいよって。その時は繁晴からも高瀬さんに言うからって」

「あいつ、朱音さんをここに連れてきたときからそう考えていたのかな」

「そうかもしれませんね」

「あとは愛ちゃんが受け入れてくれるかどうかだね」

「まだ離婚のことは話してないのです。まずは、それから受け入れてもらわないと」

それが一番大きな問題だと思った。


朱音さんの離婚が正式に成立した。養育費や財産分与に関しては、離婚を優先してかなり譲歩したということだった。

その日の夜、愛ちゃんにすべてを話すことにしていた。

「愛、よく聞いて。ママとパパは離婚することにしたの。だからママとパパは、これからは別々に暮らすことになったの。それで、愛はママと一緒に暮らすことになったから、パパとは一緒に暮らせなくなっちゃったの。でも、パパはずっと愛のパパだから、月に1回はパパに会えるし、何かあればパパに連絡していいから、だから・・・」

「嫌だ!」

「愛?」

「そんなの嫌だ。パパと一緒に暮らしたい。パパとママとみんな一緒がいい」

「ごめんね。ママはパパと一緒に暮らすと、とても辛いの。ママはどうしてもパパとは一緒に暮らせないの」

「嫌だ!嫌だ!」

愛ちゃんは泣き出した。俺は黙っているつもりだったが、思わず愛ちゃんに話しかけた。

「愛ちゃん、ママも辛いんだよ。愛ちゃんはママが悲しんでもパパと一緒に暮らしたい?」

愛ちゃんが俺の方を見た。

「愛ちゃん、パパの代わりにはならないかもしれないけど、おじさんと一緒に暮らすのはどうかな?オセロもできるし、遊園地や旅行にも連れていってあげられるよ?」

「おじさんはパパじゃないもん!」

愛ちゃんはそう言って部屋に籠ってしまった。


ほんの1年前まではこの家に俺一人で住んでいたのに、ただ単に元に戻っただけなのに、俺の心の中にポッカリと穴があいてしまったようだった。結局朱音さん親子はこの家を出て、実家に戻ってしまった。あれ以来愛ちゃんは俺に口をきいてくれなくなった。嫌われてしまったようだ。

朱音さんは俺の会社の社員なので、毎日連絡はとっている。仕事と称して、夜俺のマンションに来ることもある。さすがに泊まることはないが、それでも俺たちの関係は良好に続いていた。

朱音さんは時間をかけて愛ちゃんを説得するから待ってほしいと言ってくれた。俺は何年かかっても待とうと決めた。


愛ちゃんの小学校の入学準備をしているというので、何かプレゼントを贈ろうと思った。本当はランドセルを贈りたかったが、それは祖父母の役目だというので遠慮して、文具セットを贈った。文具セットを贈って1週間くらい経った頃、朱音さんから連絡があった。今からうちに来ると言う。しかも愛ちゃんも一緒だということだ。

インターフォンが鳴ってドアを開けると、朱音さんの後ろに隠れるように愛ちゃんがいた。部屋に上がると朱音さんが愛ちゃんを促した。

「愛、ちゃんとお祝いのお礼をいいなさい」

「ありがとう」

愛ちゃんが小さな声で言った。

「気に入ってくれたかい?」

「うん。それと・・・」

愛ちゃんが恥ずかしそうに言い淀んだ。

「それと何?」

「オセロしたい」

驚いて、俺は朱音さんの顔を見た。朱音さんは黙って頷いた。

「わかった。オセロしよう」

俺はオセロを持ってきて愛ちゃんの前に置いた。

「あれからオセロはしていたの?」

愛ちゃんはかぶりを振った。

「全然してなかったの?」

「誰もしてくれないもん」

「そうか、オセロしたくなったらおじさんに言いなよ」

「毎日してくれる?」

「毎日ここまで通うのは大変だよ?」

「じゃあ、前みたいに、ここに住む」

俺は再び朱音さんの顔を見た。朱音さんは今度はニコッと笑っていた。

「うん、ママと愛ちゃんと、おじさんの3人で、ここに住もう!」

愛ちゃんが照れくさそうに笑った。


愛ちゃんは、離婚後初めてのパパとの面会をしたそうだ。別れた旦那さんは、パパとママが離婚したのは、すべてパパが悪かったからだと愛ちゃんに説明したらしい。だからパパの代わりに愛ちゃんがママを幸せにしてあげてとパパに頼まれたということだった。それまで繁晴が、ママの幸せのために高瀬のおじさんのところで一緒に暮らすのが、一番だよと諭していたことから、愛ちゃんがおじさんのところへ行くと言ってくれたそうだ。

朱音さん親子が正式に俺の家に引っ越してきて1週間ほどした頃、夕飯を食べながら朱音さんが愛ちゃんに聞いた。

「愛、弟か妹、ほしい?」

「ほしい!」

朱音さんがニコッと笑って俺を見た。

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