地方誌『くらしのマガジン』編集者Bさんの取材 ①



こんにちは、大変お待たせしましたね、

何から話しましょうか、ええ、やっぱりメールの文面でもお送りした通りの、変な話。

変な話っていうのは語弊を生んでしまいますね、変な話、変な話と。

そうです、去年の十一月頃ですかね、秋の山です。色づいた綺麗な木々が辺りを染める頃、

趣味が私登山でして、もちろんこちらの師井山は住む地区なので、それこそもう40回くらいは登ってるんじゃないですかね。その時のことです。

山頂から近隣の小籏山方面に向かおうと歩みを進めていたら、まあ、舗装はされてる道で、結構登山者とかもいるんですよ?帰りのことでした。私は一人で山に出向くような人間なので、その時も一人で、なんかその鼻につんとくる腐敗臭のような。植物とかじゃないなとは思いましたけど、嫌だな、なんて思いながら歩き続けました。どんどんその匂いが近づいてきてまさか、と思い、頭の上をなんとなく見たんです。

そしたらそこには首吊り死体があって、もうそれこそ首吊りですから身体中のあらゆる箇所から汁や液が垂れ流されるように出ていて身震いしました。

恐ろしいものを見たとただもうそれしか考えることができずに、とにかく、やばいよりかは電波の届かないとこですし、知らせないと、助けないとって思いが勝って、その場から一旦移動しようと試みたんです。その場で一応と、警察と救急どちらに電話をするべきか悩んで、110番にかけてみたんです。電波のない状態で。

数十メートルは離れました。すると不思議なことにさっきまでそこで吊り上がっていたものがまんまと消えていたんです。いやそんなことあり得ないと、周囲の頭上を確認しました。四方八方右左上下を。しかしその遺体はどこにもなかったんです。いやあ、驚きました。安心感よりも驚きの方が強く残って慌てふためきましたもん。

幻覚とかそういう部類の話ですよね、あちゃあとうとう自分も見るようになっちまったかと。

そんなことを考えながらも頭上を見て、あちらこちら見て。うん、やっぱり幻覚か、と肩を落としたんですが、その腐敗臭だけずっと、もうずっと鼻にこびりつくような、いやあ、最悪ですよ。もう地獄。あ、みます?ほら、これ。ちゃんと警察に電話をかけてしまったってスクショなんですけどね。あまりにもやばいって思ったのでそんなものまで撮ってしまいましたよ。

それこそ一晩くらいは匂い取れなかったですね。なんだったんですかね、のちに訪れてみたら全然匂いはしなかったんです。恐怖ですよ。恐怖。匂いがしないってのもまた恐怖で。

なんですかね、まったく。誰かが亡くなったとかの情報も聞かなくて、その周辺の山でも。

まあ知れ渡ってないからってのもあると思いますけどね、一年でだいたい300人くらいが亡くなってるらしいですよ。だからこの山で亡くなってる人もいておかしくないと思いますよ。

あ、この数字は行方不明者とかですよ。自殺者ではないと思います。

自殺するような人って、どんな心境なんでしょうね。すいません全然関係ない話を。

いいですか?ええ、すいません。やっぱ怖いとか思わないんでしょうかね。

もう限界値に達して考えようにも考えられないんでしょう。

私以前高架橋を夜歩いていたんです。一人で歩いていたら、飛び込もうとしている若い男性がいたんですよ。いやあ、高架橋ってくらいですからそんな高さはないんですよ。

落っこちても骨折するか、痛める程度だと思います。まあでもあれです。

車に轢かれたらそれこそ死んでしまう可能性はありますがね。

最初彼の後ろを通り過ぎるや否や声をかけられました。

「痛いと思いますか?」と私は驚いてすぐに振り向きました。

そんなこと聞かれるなんて思いませんでしたから、なんて言おうか悩みました。

全く知らない人に言われるんですよ、しばらく考えたのち、無責任に「痛いんじゃないですか」なんて私は言いました。本当無責任ですよね、そうですかって彼は言って少し笑いながら私に背中を向けました。そのまま彼は去っていこうと階段の方へ足を向けたんです。

なんだったんだろうなってしばらく考えました。

しばらく考えて考えていたらその彼の顔を翌日会社のテレビで見ました。

同じくこの市の河川敷で水死体になって発見されたんです。

なんでわかったのかっていうと、彼の衣服が映ったんです。

ニュースでは事件性があるって滅相もないこと書いてましたけど私はこう思うんです。

多分痛みがないと思って冷たい水に飛び込んで死んだんだと。

まあ、彼の名前を知るわけではないのであれが彼だったという確証はないんですがね。

きっと彼であると思いますよ。今でも。いや、彼であって欲しいと願うばかりです。すいません全然関係のない話してしまって。あまりに記憶によりつく事柄だったので話させてもらいました。いや、でもですよ。でも。もしかしたらっていうのがあるんですよ。

その彼が、あの時のそれではないのかと。

語彙力が欠けていましたね、そう、その幻覚の遺体です。首吊りの。

取り憑かれている、そんなわけはないと思いますがね、時折彼が夢に浮かんでくるんですよ。

夢に出てくるんじゃなく、夢に浮かんでくるんです。

決まってその日は寝れた心地がしないんですよ。一切しないんです。

寝て疲れを癒すどころか寝て疲れるような。同じように聞くんです。

「痛いんですかね」「痛いんですかね」

「痛いんですかね」「痛いんですかね」と。

え?なんですか?変な声が聞こえた?

変な声って、いやまさか。

え、やめてくださいよ。

今も聞こえてるって?な、何が聞こえてるんですか。

何が、何が聞こえるって。

冗談はよしてくださいヨょョョョョよよヨヨョョョ







すいません、いやあ、まさか吐いてしまうなんて。ごめんなさい、いやあ、正直さっきの出来事が何にも分からなくて。何が起きたのか、全然思い出せなくて。まったくです。まったく思い出せなくて。

その変な声ってどんな声でした?低い声でした?それとも高い声ですか?

低い声でいうと、思い当たることがあって、それこそ、彼の声です。水死体になった彼。

低い声でしたよ。ひっくううううくうううくううくうううぅぅ




なんですか!っちょっと!!

見えてます、やばいの。やばい、やばい。

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