第7話 子土竜

ある朝、村の集会所の掲示板に、一枚のビラが貼られていた。

そこには裕平がネカマに送った卑猥な言葉が、そのまま切り取られて印刷されていた。


――「俺の子土竜を見てほしい」


赤いマジックで殴り書きされたその言葉は、笑いと嫌悪を呼び、近所の人々の目にあっという間に広まった。

翌日には集会所だけでなく、スーパーの駐車場、電柱、そして彼らの家のポストにまで、そのビラがばらまかれた。


父は深いため息をつき、怒鳴る気力すら失っていた。

「……もう、村中に知れ渡ったぞ」


近所の視線は冷たく突き刺さる。子どもたちは裕平を見かけるたびに笑い、ひそひそ声で「子土竜だ」と囁いた。

現実の世界でさえ、彼はネットのミームと同じ扱いを受け始めた。


そしてその頃から、裕平の身体は目に見えて変わり始めていた。

背筋は曲がり、肌は乾燥し、爪は土を掘るように硬く黒ずんでいった。

視界は暗く狭まり、まるで地中に潜っていくかのように光が届かなくなった。


夜、布団の中で息をつくと、胸から喉にかけてざらついた音が漏れた。

――それは人間の声というより、獣の掠れた鳴き声に近かった。


あるとき鏡を覗き込むと、そこにはもう“浜川裕平”という輪郭は残っていなかった。

泥の中に住む小さな生き物――土竜に似た何かが、鏡越しに自分を睨み返していた。


彼は悟った。

自分はついに、世界に拒絶された「晒し者」としての姿に、肉体までも変わり果ててしまったのだと。


しかし、誰もその変容を哀れむことはなかった。

父は黙って視線を逸らし、村人たちは笑い、ネットには新たな晒し画像が流れ続けていた。


裕平の「土竜」としての生が、こうして始まった。

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