第27話 輪罠
翌朝、早朝。
蒼く薄い靄が森を包み、遠くの山々は紫の輪郭を滲ませている。小鳥たちのさえずりが一つ一つと増えていくたびに、静寂はゆっくりと退いていった。
「起きろ」
『ん〜〜後五分』
「置いてくぞ」
扉を開き、荷物を持って事前に言われた通り北門前に向かう。
『ちょっと荷造りを手伝ってくれないかい?昨日やろうと思ってたんだけど寝ちゃっててね...』
「....」
―――――――――――――――――――――――
集合時間十分前
『思ったり早く来てしまったね...雑談でもする?』
「何か共通の話題あんのかよ」
集合時間三分前
『元々は北海道・鴻之舞金山跡で発掘されたただの石だったんだが、これがびっくり、オカルト...いや神話や聖遺物をエネルギーとする...ライダーストーンだったんだ...色合いはパライバトルマリンに近いよ』
「それを加工してベルトにしたって事か...いや最初に色々試した奴誰だよ怖い」
『私だ』
『すまない。待たせたかな?』
『アワワワノアアワワノア』
石畳を打つ蹄の音が、朝霧の町にこだまする。
カツンカツンと律動を刻みながら、二頭立ての馬が黒塗りの馬車を引いていた。木製の車輪がゆっくりと回るたび、古びた鉄の留め具がきしみ、油の匂いが微かに漂う。馬車の外装は、紋章を刻んだ真鍮の飾りで縁取られ、陽の光を鈍く反射している。
そう言って現れたルベルトと蘇我が乗っていたのは、やけに立派な装飾が施された馬車だった。
「いや、今来た所だ。ノアは?」
『ノアかい?彼なら多分遅れてくるよ』
「...俺が間違ってるのかな」
集合時間十分後
「数オリ出た事あるのはスゲェわ...」
『だろう?ちなみに私の日本のGDPは世界二位でね。このまま行けば世界一発展した国になってもおかしく』
待ち人の影が一つ、二つと伸びる中――ようやく、石畳の向こうから軽い足音が響いた。
『悪ぃ...遅れたわ』
息を切らしながら駆けてくる青年は、肩にかけた革の鞄を慌てて押さえ、額にはうっすらと汗を浮かべていた。
髪は乱れ、少し息が荒い...どうやら走ってきたらしい。
「どうしたんだ?」
『色々厄介事をな』
「厄介事?」
『こっちの話だ。それよりお嬢、プレゼントだ』
そう投げ渡されたのは...
「..,ベルト?」
『そうさ。これなら小道具を仕込めるだろ?』
...絵面を考えると俺に
『ノア、さっさと君も乗るんだ』
『うーい』
全員が馬車に乗った後、ルベルトが手綱を両手で上から下に叩いて、馬は動き出した。
―――――――――――――――――――――――
走行距離32km目、馬を休憩及び野宿
「確認しとくが、
『無い無い!俺ちゃんがそんな事するタイプに見える?』
「見える」
『おいおい冗談だろ?』
「御託は良い。で?アレはどうする」
彼女が親指で指し示した光景。それは...異世界ではある意味お約束と言えるイベント...かもしれない。
陽光が森の木々の間を抜け、揺らめく影が街道踊っていた。
王都へ続く街道を、一台の豪奢な馬車が進む。深紅の布張りに金の縁取り。高級そうな御紋旗が、秋風を受けて静かに翻っていた。
馬車の中では、若き王女が窓の外を見つめていた。
白金の髪が揺れ、陽の光を受けて淡く輝く。指先には王国の印章を刻んだ指輪。
『……静かね。あの騎士たち、緊張しているのかしら』
彼女の向かいに座る侍女が小さく笑みを返す。
『王都まではあと半日ほどです。もうすぐ安全な領内に入りますよ、姫さま』
『ええ。そう……だといいのだけれど』
その瞬間、かすかな違和感が馬車を包んだ。
――風の流れが、変わった。
森の奥から、何かの気配が漂ってくる。
御者が眉をひそめ、手綱を引き締めた。
「……おかしいな。鳥の鳴き声がしねえ」
次の瞬間、風を切る音が鳴る。
一本の矢が飛来し、御者台のすぐ横に突き刺さった。
「敵襲――っ!!」
護衛の騎士が叫ぶ間もなく、茂みの中から黒ずくめの男たちが現れる。
粗末な革鎧、錆びた剣。十人、いや十五人はいるだろう。
『いたぞ! 本物の王族の馬車だ!』
『傷つけるな! 生きたまま捕らえろ、値打ちが下がる!』
剣が抜かれ、馬が悲鳴を上げる。
馬車が揺れ、王女の体が座席に叩きつけられた。
『姫さま、お下がりください!』
護衛の一人が盾を構えて立ちはだかるが、矢の雨が彼を押し返す。
森は混沌とした叫びと金属の音で満たされていく。
王女の唇が震えた。
『誰か……誰か、助けて――!』
その声が森に吸い込まれた瞬間――。
空気が、わずかに震えた。
――――――――――――――――――――――――――――
『ど!どうしましょう!やっぱり逃げっ』
『こうしてはいられない。
そう言って魔法陣のようなものからバイクを出現させる新倉。だが、二人が口を挟んで新倉を止める。
『いや待て新倉...』
今回に関しては俺も同意見。
『「アレは罠だ」』
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