第26話 厨パ
『腹ごしらえを済ませた所で、明日に向けて戦闘時の陣形と移動先を確認するぞ〜』
ルベルトの食事を皆が平らげ、ルベルト全員がこの場に集まっている。
『えーまず目的地は...聖都。ここで俺ちゃん達の協力者と落ち合う予定。協力者は会ってからのお楽しみ...んで、次は戦闘時の対応だな』
ベットの上に腰掛け話を進める。
『ルベルトは基本非戦闘員だからパス。メインは俺ちゃん、お嬢、新倉の三人だ。
新倉が前衛、俺ちゃんが後衛。で、お嬢は状況次第で近接・遠距離・回復を切り替える。つまり――お嬢は補助兼回復役って事』
「ちょっと待て、俺前衛も後衛も回復もやるの?」
流石に限界がある。当たり前の事だが俺は一人しかいない。そう言える筈なのに、確認しか出来なかった。
『でもさ、お嬢って肉体の割にはある程度インファイト出来るじゃん?それに、“見えざる刃”だっけ? あれで遠距離もいける。まあ、新倉も遠距離いけるし、俺ちゃんだって近接が出来ない訳じゃないけど。この中じゃ、お嬢が一番器用って事。それに――』
彼女を見る目が、変わった。
「おい、どうした?顔色悪いぞ?」
『いや何でもねぇ。それよりお嬢、今、出来ないとは思わなかっただろ?』
「は?」
『いや何、俺ちゃんも"視"ただけだから断言出来ないんだけどさ』
ノアがサングラスを外す。瞬間、その瞳に射抜かれる。
まるで、心の奥底まで見透かされているようだった。
『お嬢って壊れてるだろ』
「....」
『ノア流石にその言い方は』
『だってよ、痛覚はあるっぽいけどイカれてるし、すぐ色々使えるようになるし』
壊れてる...壊れてるのかな...
「それについては説明出来る。俺が汎用性の高い技術を有しているからだ。脱力や軸の考え方。体幹や重心、メンタル。この五つの技術があるからこそ、きっと俺は習得するのが人より早かったんだろう」
『確かに一理あるな?だが、なら何で記憶喪失しているお嬢が使えるんだよ。染み込んでたってか?』
「消えてたのはエピソード記憶で」
『エピソード記憶以外にも影響が出てるんだろ? なら、おかしいだろ。お嬢の世界は平和だったはずだ。少なくとも、殺し合いなんて日常にある世界じゃない。しかも歳は俺ちゃん達の中でも元から最年少。今世で肉体が幼くなって精神が引っ張られて、挙句の果てに記憶喪失だぞ?なのに、どうして格闘技を? それも、あんなに多く?あの練度で?…しかも覚悟を決めれば人を殺せるときた……お嬢、あんた――戦い慣れしすぎてるんだよ』
そう言った彼の声は、少し悲しさを感じさせるものだった。
「俺は...壊れて...」
『何故そこまで追い詰める事を言う?それが彼女を無茶させる理由にはならないだろう。私達のどちらかがやればいいだけだ』
新倉が口を挟む、明らかに言い過ぎと判断したのだろう。
『確かに無茶かもしれねぇ、だがよ』
一泊置いてノアが口を開く。
『お嬢にとってこれは、この殺し合い上等の世界で、失敗出来る最初で最後のチャンスかもしれねえ』
『…成程』
『俺ちゃんは新倉と違って、お嬢を戦力として信じてる。それにいつまでも守ってる訳には行かないんだ。なら、お嬢が死ににくくなるのがお嬢にとっても一番だろ?』
『君の主張も理解出来る。だが、あくまで最終判断は彼女だ』
『まあ俺ちゃんも無理やりさせるつもりなんてねぇよ。最終判断は、お嬢が決めろ。安心しな、どちっちの選択だろうが誰も責めねぇよ』
「…俺は」
恐らく、視点は違うだろうが彼らなりに、自分の事を気遣ってくれている…それだけは理解出来た。
「やるよ…その役割。俺は、お前らを信じる」
『いい答えだ。勿論、俺ちゃん達もカバーは入る。信じてるぜ?』
「ああ、信じろ」
『そんじゃ話を戻す。こっからはサメちゃんのポジだ』
『あっはい』
そう言う彼女の姿は、動物の羽根のようなものがついていた。きっとルベルトと共に、動物とでも戯れてきたのだろう。
『サメちゃんは秘密兵器兼最終兵器ね』
『あっはい』
『この事は後でルベルトにも話しとく、以上!明日は朝早いから早く寝ろ。んじゃ解散!』
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『君がそこまで言うなんて、彼女の過去はそこまで悲惨だったのかい?』
ノアの部屋にて、残った朝倉がノアに問いかける。
『ああ』
『なら尚更、戦わせるのは酷だろう。何故彼女を一番危険にさせる前提の陣形を作ろうとする?回復してくれるのは有り難いが、あんな立ち回りすれば真っ先に狙われるよ?』
『…倫理的には百お前が正しいよ。大人として真っ当な意見だ。だが、俺はアイツの力を信じてるんだよ』
『力?信じてるのは彼女の人格では無かったのか?』
『勿論人格も信頼出来るぜ?が、一番信じられるのはあの悍ましい力だ』
『悍ましい?』
仮にも才能という素晴らしい力を、彼は悍ましいと評す。
『悍ましいだろ。あれは…平和な世界で、努力もあったんだろうが、あそこまでの総合値は見た事ねぇ。そりゃ俺達が戦えば今のアイツには勝てるだろうが。今の状況でも多分力を腐らせている状態だぜ?その才能に俺は魅せられた。アイツが覚醒すれば、このクソみたいな儀式を終わらせる最強のカードなる』
『彼女の力?私にはそこまでには見えなかった。あれは、君と比べれば秀才の範疇じゃないか』
『あれはそんなもんじゃない。あれは、天才が何度も絶望しなくちゃ到達しない。いや、そりゃあんなのが相手なら死に物狂いにもなるか…ヒヒッ』
彼は顔を押さえ、細かく震えていた。
その姿はまるで、彼女――いや、彼女という存在に宿る“記憶”そのものを恐れているかのようだった。
脂汗が額を伝い、こめかみを流れ落ちる。目元は絶え間なく痙攣し、理性の残滓が崩れ落ちていくのが見て取れた。
『だが彼女を戦わせるなんて…子供だどうだじゃない。力に狂ったのか?君は彼女という人間を見て』
『現状を見ろ。今回で終わらせるんだろ?このクソみたいな殺し合いの負の連鎖を、"社長"とそう決めたじゃねぇか…使えるもんは全部使う』
もし彼が、彼女の世界を観測出来る程の力が無ければ、もし彼女が、神話的事象にここまで巡りあっていなければ、もしくは、この世界が平和だったらこんな事になっていなかったかもしれない。
『...壊れているのは君の方だ』
『もう壊れちまったのかもな?あんなの視たらもう戻れねぇよ。今すぐ記憶から消してぇ』
男は一端とはいえ、視てはいけないものを見てしまった。
――が言ってた事は正しかった"俺"がアイツを"覚醒"させる。
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