第25話 魔改造

「ハァ、ハァ...一節...単詠唱...エアッ!」


詠唱と同時に、風が吹き荒れた。勢いは凄まじく、空気が震える程であった。


『ま〜及第点...か。よし、じゃあ次は二節を――』

「...ちょっと待ってくれ」

『ん? なんだ、別に何かしたいことでもあんのか?』

「ああ、少し席を外す」

『んじゃ俺ちゃんは待ってるから...さっさと済ませな』


流石に少し休憩したい...それにまだ試したい事はある。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


風が抜ける。

木々の切れ間に広がるその場所は、まるで空が地上に降りてきたかのように開けていた。

地面は踏み固められ、ところどころに草が揺れている。

遠くで鳥の声が響き、静けた空気が漂っていた。


身体強化ストレングス....十速」


激しく体を動かす。見た目こそ派手だが、やっている行為は筋トレにすぎない。


今の俺がフル十速を使える時間は...大体三十秒か。思ったよりも長い...だが、前よりは確実に短い...理由は何故か。大方察しはつく、恐らく無詠唱が使えないのも同じ理由だろう。


あの時の超集中、それが無詠唱...及び十速をあの時の理屈も無く、朧げな記憶のみで戦っていた俺が無茶苦茶出来た理由だろう。それに、あの時治癒を無詠唱で使えなかったら、俺は死んでいたか"切り札"に頼らざるおえなかっただろう。

恐らく生存本能で火事場の馬鹿力でもあったのかもしれないが、今後はあの状態の再現性を上げる事が課題だな。まだ死にたくはない


確認したし...さっさと戻ろう。余り待たせるのも悪い。


「戻ったぞ」

『お、案外早かったな。あーそういやお嬢に一個聞きたい事があった』

「何?」

『確か、お嬢って身体能力の事気にしてたよな?』

「まあ一応。特に筋りょ」

『話は聞かせて貰った!!』


そこにいたのは、昼飯を食べたあと二度寝をキメた女。

新倉、その人だった。


「...おい」


ノアを見る。が、ニヤニヤとした視線を向けるばかり。


『君のその悩み、私が解決しよう!』


肘でノアの横腹を弱く突く。


「(おい、どういうつもりだ)」

『(別にただの意地悪じゃ無いんだぜ?それに、お嬢の懸念はもう考えなくても良いかもしれねぇ)』

「(どういう事だ?マジで)」

『(確定してから言う。それに、今後の為にお嬢の手札が多いに越した事は無い...だろ?)』


確かに言う通りだ。俺の感情以外に、ここで話を聞かない理由は無い。


「それで、どう悩みを解決してくれるんだ?」

『ふふっ実は私は趣味で道具作りをしていてね。君に色々試して欲しいんだよ』

「....嫌だ」

『何故』

「死にたくねぇ」

『...仮にも子供である死ぬ事はないさ。私の信条を忘れたかい?衝突した仲だろう?それに、もし付き合ってくれるなら、私の道具をあげる事も吝かではない』

「やる」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺って反省しないよな。


「アガバァ!!」

『良いね良いねぇ!君は最高のモルモットダァ!!』


グローブ型コントローラー?を渡された時から、俺の運命は決まっていたかもしれない。


『大丈夫だ。君の安全は保証されている』

「何だ...これは...」

『 AI搭載スマートナイフ...カトラくんだよ』

「性能は?」

『振ったら分かるよ』


言われたままナイフを振る。何が起こるんだ?AIが色々と分析を...


『かっこいい!最高!君のナイフ捌き、体内にナイフ職人でも飼ってるのかーい!』


喋る。励ます。やたらとポジティブだ。

……にもかかわらず、このナイフ、枝も切れない。何も切れない。何だこれは。


「...言葉の切れ味悪」

『次はコレ、どこでもド...ンンッだ』


あれか!流石に俺も記憶喪失でもギリ知ってるぞ!あの狸の!


『詳しくはそこの商品説明文を』

「ああ!」


なになに...未来の定番アイテム……だったはずの高性能転移ドア。

Wi-Fi接続を利用して座標情報を同期する仕組みのため、通信が途絶えた瞬間に機能停止。


山奥・地下・異世界など、電波状況が悪い場所ではただの扉と化す。

週一で約1GBのアップデートが必要なうえ、回線速度が遅いと開くまで約三分かかるという致命的欠点を持つ。


⚠︎アップデート中に扉を開けると、転移先がランダムになります。


「...何でWi-Fiなんだよ...どんな理屈で動くんだ?」

『これらは話の枕だよ。次が本命さ』


そう言って彼女が取り出したのは、黒い手袋のような何かだった。


「手袋....?」

『実際に使ってみてくれた方が早い。魔力を流してみて』


魔力を流す――前世で覚えている感覚を頼りに、慎重にそれを手に通す。

すると、手の甲にあった小さな突起から糸のようなものが伸び出した。


『次にイメージするんだ。糸が伸びて、木に突き刺さるイメージを』

「イメージね...まあ、魔術で散々やってるから何とかなるだろ」


集中すると、糸は勢いよく射出され、近くの木に突き刺さった。


『よし、今度は“糸が巻き取られる”イメージをしてみてくれ』


言われるままに意識を向けると、糸が巻き取り始め――

釣られるようにして、俺の身体が木の方へと引き寄せられた。


成程、糸を使って立体的に動く仕組みか。

......でも、強度どうなってんだ? 普通の糸じゃ絶対無理だろ。


「理屈が意味わからん....これ、どうなってんだ?」

『説明しよう! それは私の発明品の中でも“ガチ”の一品でね。

たが――欠陥が三つある。

一つ目、体重が重すぎると上手く作動しない....まあ、君の場合はそこは問題ないだろう。二つ目、遠心力の都合で足腰が破壊される危険性があること。そして三つ目、加速手段に乏しいことだ。理屈上、君は理科の授業で使う“紐をつけた鉄球”に近い存在だからね。巻き取る力という別のエネルギーはあるが、加速力が足りないんだ』

「...成程な。聞きたい事があるんだが聞いてもいいか?」

『何だね?』


視線を手の甲に落とす。


「なんで、こんな馬鹿げた法則が働いてるんだ?後欠点多すぎだろ」


異世界には異世界の法則があるって言った身だが、イメージと魔力であんな糸を作れる筈が無い。


『ああ、そういう事...うーんなんて説明すれば...いやまあ一番近いので言うと...』


ブツブツと独り言を呟いた後、新倉は顔を近づける。


『例えでいうと、ミーム社会的遺伝子とか神話解釈論だね。もっと分かりやすく言うと思い込みとか、ネットで上がってただろう?偽の腕を本物と思い込んで痛がるやつ。私が趣味で研究していたのはそれさ。ちなみにこのライダースーツにも応用されてるよ』


...意味分からん。


「要するに...思い込みの力で先に完成系の図を思い浮かべて、魔力でそれを構築して実現する...であってるか?」

『そう!それ!糸を制限があるとは言え自由に扱えるのさ!どうだ凄いだろう?』

「マジでエグい物作ったなって思ったが、骨粉砕は何とかするとして結局加速力は....あ」


ニヤついているノアと目が合う...こいつまさか俺に最初に風魔法を教えたのは


『あれぇ〜?俺ちゃんの考えだとぉ〜お嬢ぅ〜魔法は〜?』

「...コイツ...初めから全部この為に...?」


クソウゼェが答えてやる。魔法とは――


「応用...だろ?やってやんよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『良いぞ、もっとクリエイティブに!もっと物理法則を忘れて自由になるんだ!!』

「一節単詠唱、エアッ!」


風が吹き荒れ、力を使って加速する。

理屈は分からない...が、ひとまず形にはなった。もう移動程度は訳無いだろう。


気づけばもう夕暮れだが、とても有意義な時間だった。


『大丈夫かい? 本来ならこんな真似はしたくなかったんだけど、君が動ける方が危険は少ないと判断したんだ。ちなみに何かスポーツでもしていたのかい?』


急に冷静になるなコイツ。


「格闘技、スポーツ...記憶にある限りは色々やった。つうかノア、最初からこれさせるつもりだったのかよ...」

『そうそ!お嬢には働いてもらうつもりだからさ。機動力が欲しかったのよ。まあ火力はお嬢ならナイフ一本ありゃ何とかなるでしょ?』

「まあな。あーーお前なりにちゃんと考えてくれてたんだろ?...ありがとな。新倉、お前も」

『案外礼とか言うんだな。ま、ルズベトたちが夕飯できたって言ってるし、とっとと帰ろうぜ?』


――調整を終え、帰路に着く


『ちなみに、手の甲の突起をダイヤルみたいに弄ると、手に触れる摩擦力をいじれるよ。大体ほぼ0から2倍くらいかな...後摩擦力の変化は手袋同士が触れる場合、影響を受けない』

「先に言えよそれ」

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