第28話 能力
『罠?』
『いわゆる「テンプレ」ってやつだ。ここ一、二年で流行した転生者を狩るために転生者自身が考案した罠。引っかかるのはだいたい戦闘慣れしていない転生者で、俺ちゃん達みたいに徒党を組んでいる連中や、転生者を殺したい奴にとっては格好の的になる』
テンプレの展開を利用するとそんな事も出来るのか...油断できねぇな。
『なるほど』
『お嬢はどう考えたんだ?』
「...豪華な装飾が施されているくらいの財力があるなら、相応の護衛がいるはずだ。今彼らが押されてるなら、俺たちが無理に戦うべきじゃない。この距離じゃ詳しい戦況は見えないが、声を聞く限りでは馬車にいる連中が不利って所か。で、どうする?逃げるか、リスク承知で戦うか」
『向かうべきだ。もしも本当に襲われているなら取り返しがつかない』
『流石に人情だけで助けには行くにはリスクが高すぎる。もうちょっと冷静に』
『実利もあるさ。恩を売るというね。それに、やるだけの事はやっておくべきだろう』
普段の生活を見ていて実感は湧かないが、きっと新倉も特撮系主人公のように熱い心を持っているのだろうか。少なくとも、この場の誰よりも人情深い判断を彼女は下している。
『...っつたく、しゃーない。まあこのメンツで対処出来ないのって何だよって感じだしな?』
『ひとまず私達三人で接近しよう。詳しくは移動しながら話す。今は一秒も惜しい』
――林の中に三人が身を潜めている。偵察に最も優れた柴田が先行し、状況を確認する。安全が確認されると合図を送り、二人もそれに続いた。
『私が言うのも何だが...本当に良いのかい?恐らく一番危険な役回りだよ?』
「良い。俺が一番死ににくいからな」
勝算はある。注意すべきはあの野盗なんかじゃない。
警戒すべきは一人、圧倒的な気配を持った男だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
森林の深みに伸びる細い街道は、木々の緑に包まれ、光と影のコントラストが道を縫うように落ちていた。
『ここから先は通さない!』
『姫よ!どうかお下がりを!』
護衛の兵士が相対するは、五人の兵士。既に猛者中の猛者である彼らのうち、三人が頭部を握り潰されたようにひしゃげ、地面に倒れ伏していた。
『やるねぇ〜覚悟だけだけは』
『グアッ!』
『しっかし、女神様ってのはこんなに良い力をくれるもんなんだな』
瞬間、男が握り拳を作る。空気が震えた。
『ガッ"』
中世の硬い鎧を、男の拳が貫いた。
『野盗対策が全て無意味なんて...何をしても彼を止められなかった...こんな時にゴルドーさんさえいてくれれば...』
逃走していた姫が言葉を漏らす。侍女も、全ての兵士があの男に殺されてしまったから。
『姫様!お逃げください!』
そう言った侍女の言葉が、彼女の心を闇に縫い付ける。彼女も、自分を逃す為に勇敢に戦いを挑んで死んでしまったからだ。
『もうアンタだけだ。悪いが、仕事なんでね』
彼女に魔の手が迫る。距離が離れてこそいるが、追いつかれるのは時間の問題だろう。
『ハッ!ハッ!』
『逃げる...か...悪く無い判断だが、箱入りの姫さんにゃ役不足だ』
瞬間、男が走り出そう...という時に
【必殺ッ!】
『ん?』
『!?』
【――BLACK!!――CRITICAL!!――OVERDRIVE!!】
彼女の後方から、時代に見合わないバイクが姿を現した。
『クソッ!間に合わなかったか!』
「見えざる刃・
引き飛ばし、男は森の中に姿を消す。
「とりあえずこれに乗れ。話はそっからだ」
『は...はい!ありがとうございます!』
周辺状況は...街道が一本通っているだけで木々が大量。街道を直で行けば障害物無くスムーズに行けるな。
ニケツしていた席を彼女に差し渡すと、柴田は動きを止めた。
『あの...彼女は』
「先行ってろ。時間稼ぐ」
『了解』
同時、柴田の顔に向けて石が飛来する。
『痛てぇ痛てぇ、まっ釣れたし....あーー名乗りは...いるか?』
「いらねぇ」
『ならさっさと殺すか』
「見えざる刃・
不可視の刃が男を襲った。
『ハァ!!』
「
力を込めて不可視の刃を弾く。直後、男が柴田との距離を詰めた。
力を込めて不可視の刃を弾いた!?
恐らく見えてはいないんだろが...まさか?当たった直後に力を込めて弾いた?
「クッ!」
戦闘の舞台は近接格闘に切り替わる。
片や足のベルトからナイフを取り出した少女と、片や素手の男。どちらが有利かなんて誰の目から見ても明らかだろう。
『フン!』
男の打撃を受け流しナイフを振るう。狙うは急所、一秒間に四度の刺突で仕留めにかかる。
『ッ!』
脇下で挟み込まれる。が、通常...それは愚策の一つ。
何故なら脇下は人体の急所でもあるからだ。男はコートを着ていても関係無い。"このまま刃を脇下に差し込み出血させれば勝ち"。それは現代の特殊部隊でも勝ちを確信はしなくとも、有効打とは実感するだろう。
『はえーな..ただそれだけだ』
ナイフを挟み潰した...やっぱコイツ..魔法やチートじゃないなら。
割れたナイフを放棄し、蹴って距離を取る。
「お前...ミオスタチン関連筋肉肥大症か?」
『正解。望んで手に入れて体じゃないんだが、中々便利な
「それでもおかしいだろ。普通の
『詳しいなぁ〜おい。なら、あーそうだアンタ』
「何だ?」
『むかしむかし、才能に優れた少年と、才能が無かった少女がいました』
急に何を言い出してんだ?コイツは。
『そんな二人がある日行った剣の模擬戦、何と少女は負けてしまいました。しかし少女も諦めません。少女は努力を続け、何年かに一回少年と戦いました...そして十年がたった頃、国全体で行われた大会に、少年と少女は再び相見えました。さてここでアンタに質問だ』
ジェスチャーを止め、真剣さを孕んだ瞳で彼女を見据える。
『努力で才能は越せるか?』
「...それを聞いて何になる」
意図が分かない。会話何て相手にとって何の意味も無い...まさか条件付きの能力――
『まあ教えろよ。俺はお喋りが好きでね...アンタの持論を聞きたいんだ』
違うなこれは...会話を楽しむつもりは無いが、コイツはあまり手札を隠すタイプじゃねぇ。そして今、この男は何かを通じて自分の事を話そうとしている。人を知る。知ってから殺す。知らずに殺すのは無責任...その考えを取り入れ、俺はより強くなって...生き残る。
「越せない」
『理由は?』
「天才が努力しないってのがまず間違いだ。自分の事を才能無しだと思っている奴に、努力している天才に勝てる道理はねぇ。自分を信じて努力し続けた奴だけが――後で“天才”とか“偉人”って呼ばれるんだ」
本人的には"くだらない"と思っている自分の持論。ただ、相手に聞かれたから答えただけだ。自分の考えが正しいとは思わない。
『なるほどねぇ〜そんな考えもあるのか。まっ俺も結論は同じ、世の中"天才"が強いよ...それじゃあ証明しようか。俺の才能を』
彼女の考えを一部踏襲したように語りながら、男が構える。その姿勢はまさに...今から殴りますよと言わんばかりの構え。
『グアアアアアッ!』
全身の筋肉が流動し、蠢いている。同じ人間であるのに、目の前に想像するは朧げがかった怪物の記憶。
足から膝、膝から腰、腰から肘、肘から腕、腕から拳へ伝わらせ、常人の十五倍の筋力を持つ男が全身の力を全力で放つ。その技の名は
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます