第15話 苦戦
神の試練でスライム6体と戦うようになってから、半月以上が経過している。
毎日同じ試練の繰り返しだった。転移陣で小部屋に現れ、羊皮紙を確認する。
『スライム六体を倒せ』
激戦の末にスライムを倒し、疲労困憊で神殿に戻る。
内容が変わらないということは、これ以上先に進める力量がないということを試練が示しているのだ。
今日もいつものように神殿に向かった。
「オルデアル神よ、我らに試練を」
転移の光に包まれ、石造りの小部屋に現れた。やはり同じ内容だった。
『スライム六体を倒せ』
天井に6体のスライムがへばりついている光景は、もう見慣れたものになっていた。
僕たちが入った瞬間、スライムたちが一斉に落下してくる。
「ファイアボール!」
ルシェルは部屋に入る前から魔法の準備をし、スライムが落下したと同時に着弾させる。
2体が炎に包まれて蒸発した。
残り4体が床に着地する。
「僕が2体引きつける。ルシェルは残りを」
僕はできるだけ周りを広く見るようにしながらナイフを構えた。
15分ほどの激戦の末に全てのスライムを倒した。
二人とも打撲の痣がいくつかでき、いつも通り精神的には疲労困憊の状態だった。
部屋の奥に現れた木箱には、いつものようにスライム核が6個入っていた。
全身革装備は既に完成しており、今は錬金術の材料になるスライム核が報酬として得られるようになった。
ブーツ、グローブ、脛・腿・膝当て、革鎧。
頭部の装備が無いがこれで全てらしい。頭部は装備の平均の防御力が適用された強度となるらしく、神の目での見栄えのために神が配慮した結果だと言われていた。
ヘルムなどを使う者も居るがその場合は効果が重複せずヘルムの防御力になるようなので、大抵は見栄えや視界を考えて頭には装備を付けないのが普通らしい(自分達はフードで隠しているが)。
革装備で防御力は上がったものの、それでも毎回ダメージを受け、ルシェルの魔力消費も激しい。
これ以上の装備向上はしばらく望めない以上、自分たちの継戦能力が完全にネックになっている。
これをどうにかしようとは考えていて、ルシェルは既存の魔法の威力を向上させることで対策をしようとしていた。他の属性に適性が無かったのでまあ順当だろうと思う。
自分は別の属性の魔法については試してみて、多少なり効果がありそうな手応えを感じている。
ただ、どうしても風纏の使い勝手の改良ができていなかった。
威力を上げてもあまり意味がないし、攻撃を避けるのに使うには相手と自分の位置と速度関係を完全に把握して一瞬で魔法を使う必要があり、出来る気がしなかった。
少なくとも今はまだ。
転移陣で神殿に戻ると、メルナが心配そうに駆け寄ってきた。
「ミオル、ルシェル、今日も痛そうだった……」
「大丈夫だよ、メルナ。怪我は神殿の外に出ると治るから」
ヴェラントさんから借りている倉庫に装備を保管し、手に入れたスライム核6個を売却する。
未成年向けの買い取り強化で色を付けてもらっているが、それでも6銀貨。一人頭3銀貨だ。
少し豪勢な食事がとれる金額だが、このペースでは孤児院から独立するのに18年以上かかってしまう。
とても間に合わない。
『やはり、何としても強くならないといけない』
そんなことを考えながら、三人で孤児院に向かって歩いていた。
今日は風が強く、雑貨店の店先で売られていた鳥の羽毛が風で巻き上がった。
白くて軽やかな羽毛が、僕の目の前をひらひらと舞っている。
何となく、その羽毛を掴んでどかそうとした。
「あ」
しかし、羽毛は僕の手をするりと逃げるようにすり抜けた。
風の力で軽やかに舞い上がり、僕の手の届かない場所へと飛んでいく。
これは手を動かしたことによる風の圧力が羽毛を押しのけたのか?
孤児院に戻った後、僕は裏庭で練習を始めた。
風纏は今まで「追い風」だった。
風を纏ってはいなくて自分にぶつけていた。
本物の風纏のイメージが掴めたかもしれない。
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