第6話 絶望の中で淡く咲く
この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。
私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。
「…………………………………………」
人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。
世はまさに、私一色の
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
タンタンタン
見つけた あの森のなかに
ずっと 探してた タンタンタタタン
君が 落とした
星の カケラ ソウソウソウソウソウ
いまさら ごめんね
駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ
射抜きたい その笑顔
いまならば できるはず フワフワフワフワフワ
その心に 従うよ☆
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」
作 ドライ=アムガミスタ
曲 〃
異世界における少女とは?
――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。
異世界における???とは?
――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。
つまり、森の精霊。
私はそれになりたくて、それに憧れて。
何十年も彷徨っていた。そして……
前回のあらすじ
強制的にメイドにさせられた私、ドライ=アムガミスタ。
父も母もセシルも、意味がわからないくらいニコニコ。
そんな中、私たちは合同イベントで盛り上がる街に繰り出していくのだが……!?
【ドライ1000年・キャスター島】
「この机で良いのか?」
父は半ばあきらめのため息とともに、そう漏らす。
父はきっと分かっていたのだ、絶対にろくな結果で終わることは出来のだと。
「
こつん、こつん。
2つの小気味の良い音が、机に響く。
そこにはもはや、2人の友人たちはおらず、ただ戦々恐々とした雰囲気が漂う。
「む……ベンギル、貴様。」
どうも、ベンギルの様子がおかしい。
しばらくやっていなかったのに、妙に様になっているのは、陰ながらの努力の賜物か。
妙に熱を持つ拳が、何も見えない私にも、不思議な熱を与える。
「どうかな。」
簡単に答えたベンギルは父だけをまっすぐに捉えているのか、もはや雑念が見当たらない。
父は、ここ数ヶ月で最もと言っていいほどの汗を流し、少し、いや、かなり震える。
それは決してただの恐怖ではなく、武者震いなのだと私は、父の名誉に掛けて言いたい。
「痛いのは嫌なのだよ、私は。」
そう、父だって負けていられないのだ。
そう、昔からの
父の体からは、武者震い以外の震えは消えた。
あるのはただ純粋な闘志……の筈だ。
もの凄い振動が、机を通して伝わってくる。
両者とも、全く、動かない。
「そうらしいっ。」
ベンギルが、傾ける。
机が軋み、空気が揺れる。
停滞していたことが嘘のように、ベンギルの足元から伝わる鼓動。
それは、父を崖っぷちへと追い立てる。
「私も、負けられんのだよ。」
あくまでも冷静に、しかし着実に、父の体が元の位置に戻り始めている。
それと同時に、先程と同じくらいの力の衝突が巻き起こる。
どちらも、何も言わない、ただ純粋な力と力だけが、この場所を支配していた。
一体、どれくらいそうしていたのか、この私には分からない。
けれどもはや終わりは近いのだと、運命的な何かが告げている。
最後、少しだけ、父の体から体重が抜けたように見えた。
大柄な父の体からすべての力が抜け、その変化に耐えられなかったらしいベンギルがバランスを崩す。
そしてそれを見逃すほど、父は阿呆ではない。
「……。」
こつん。
間抜けな1音がなり、勝負は、そこで終わる。
【ドライ1000年・バーサク島】
「1000レイ?」
あからさまに顔をしかめる、売人。
顔にはかなりのシワが刻まれ、相当な修羅場をくぐってきたらしいことが、その皺の合間を縫う傷跡が、教えてくれる。
「……。」
そして、その傑物と相対しているのは、それとはまた異なる闇をくぐり抜けてきた、1つの
原色の緑を白で薄めたような髪、乳白色の瞳に金の瞳孔。
白色で金縁の布を身にまとい、左手に持つ本を時折眺める姿はまるで、御伽噺の中にでも登場する神父、またはそれに準ずる何か。
その瞳はケージの中に住まう一人の人間に注がれていて、それ以外はまるで見ていないようであった。
「安すぎる。」
売人は赤い頭巾で汗を拭うと、その人間が入っているケージを一瞥し、小さく最低でも2000と呟く。
大きな赤い布と張りぼてで出来た巨大なテント。
それが、ここに居座る者たちの住処。
所狭しと並ぶ鉄系のケージは、このテントの闇に向かって限りなく続いていた。
獣人、人間、亜人、咎人、魚人、etc。
雑多な種族がそれぞれの場所で、不思議な表情を携え、殆どないと言って良い人通りを眺めている。
それは羨望か、はたまた野心か。
どちらとも取れる。
そしてその中の、とあるケージに貼られた
それを聞いてか知らずか、その精霊は手を顔に当て、しばらく悩んだかと思うと、不意に言葉を紡ぐ。
「2000レイ……少々高いですね。1500レイでは?」
1レイはおよそ100円と考えるとわかりやすい。
精霊が提示した金額に満足したのか、取引を早く済ませてしまいたいのか、売人は手早く資料をまとめ、その精霊に手渡す。
それは私のこれまでの記録であり、これからの記録を紡ぐであろう
しかし精霊はやはりそれには目もくれず、じっと私を見つめる。
「貴方は、」
何を、言うのだろうか。
朱色に染まった長い髪が、その人の白っぽい瞳に写り、瞬きの間に消えて聞く。
体は痩せるでも太いのでもなく、どこか寂しいような風体で、どこにも心がないみたいな、悲しい人。
それでいて、必死に向けているその表情は、何を見ているのだろうか。
私は、自分の力無く垂れ下がった腕で体を支え、ケージにもたれかかる。
今、私はどんな顔をしているのかな?
「お買い上げ、どうも、ありがとうございます。」
その無機質な声と、直角に曲がった背筋に、私の意識は奪われていった。
【ドライ1000年・キャスター島】
「やるな、全く。」
ベンギルも体から力を抜き、カウンターに設えられた椅子にどっぷりと座る。
その間私の父は、終始右手を労っていたらしく、細々と聞こえる会話から、随分と無理をしたのだなと思ったりする。
父はその痛がる姿を見られたくなくて、外殻を下ろしたのかもしれない。
婦女子の前で、死ぬほど強がるのが騎士というものだ。
というの、
私も、前は常々それを感じることがあった。
父も、兄弟たちも、騎士として生まれたならば……なんていい加減な顔で言っていたのは、今となってはいい思い出だ。
「ベンギルもね!?いや、ベンギルがね!?」
もはや隠す気はないらしい……全く、騎士らしいのからしくないのか。
不意に、外殻を開けられる。
最初の光が失せ、私の目に一番に入ってきたのは、エプロン。
職人気質満載の、ベンギルの親父だった。
いやもうその凄い雰囲気といったら。
私じゃなきゃ3度泣きは必須だろう。
「強いな、お前の親父は。」
心做しか表情が柔らかい気がした。
きっとこの人は、強くて、それに似合う見た目をしていて。
机の方では、オロオロとする父が、どうしようか泡を吹きそうになっていた。
[次回予告☆]
こんにっち?こんばっち?
どっちでも良いけど、熱い戦いだったわ。
え?急に新キャラが出てきたって?
え?しかもイフィが出てこないって?
そんなこと知らないわ、だって物事は順序に従って進んでいくだけだから。
次は一体、どんなお店に行くのかしら。
あんまり、お祭りって雰囲気を感じられないのだけど。
まあ良いわ、これからが楽しいのだから。
次回「少女が描いた世界」お買い物って楽しいわね。じゃっ今日も行くわよっサービスサービス!
[次回も見てね☆]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます